2005年8月31日水曜日

「Ishkar」 scene 11


    *   *   *   *    

差出人:   栄安津子
送信日時:  二〇〇四年九月十九日 〇時十五分二十秒
宛先:    増田考志
件名:    
 増田くん、元気? 栄です。私は昨日、熊本から帰ってきました。増田くんも、もう京都に帰ってるよね。よかったら、今度の火曜日、一緒に飲みませんか?
 まさか、まだ北海道にいたりなんかしないよね。この前一度、聞きたいことがあってケータイにメールしたんだけど、返事ももらえなかったし。最近連絡ないし。どうしてるんだろう、と、ちょっと心配しています。
 それから、もしまだ北海道にいるようなら、お土産はチョコがいいなー、なんて思ったり(笑)。いろんな話も聞かせて下さいね。楽しみ。じゃあ、またね。

    *   *   *   *    

 暑い盛りを歩いてくぐり抜けてきた。今、日は大空の西に傾き切って、仄白んだ青に懸かりながらゆっくり落ちてきている。
 取材旅行に来ていた男は、恵庭の駅で降りた。水橋も新千歳空港までは行かず、千歳の駅で電車から降りた。まだ九時前だった。それからはずっと、千歳市の中で時間を過ごしている。
 駅前のロータリーは広く、その右側、交差点の角になったところに、スカイグレーの四角い建物が建っていた。敷地面積も大きくなく、こぢんまりとしていて、壁の下の方に横一直線に並んでいる窓ガラスには、何の装飾もされていない。建物の角になったところに、有名衣料品店のロゴなどが並んでいることから、ショッピングモールか何かだろうと推測された。雪が積もらないように縦になった信号。その向こう側の中空を、建物と同じスカイグレーの連絡通路が横切っていて、その壁にも横一直線にガラスが並んでいる。
 信号が青に変わり、まだ誰もいない連絡通路の下を、何台かの自動車が通り抜けていく。その流れに沿って、水橋も横断歩道を渡り、通路の下をくぐり抜けた。建物の陰は涼しく、剥き出しの首筋や両腕には、どこかひんやりと冷たかった。
 それから、どこをどう歩いたのか。水橋にはよくわからなかった。ビジネスホテルなどが立ち並ぶ街の中心部には、土曜日だと言うのにスーツ姿の人たちもいた。その中を、肌にぴったりと吸いつくようなタンクトップとズボンを着て、淡い色の茶髪に白いエクステを付けた女性が二人、のんびりとした足取りで歩いてくる。そして、そのままの足取りで、水橋とすれ違う。見渡す限り、道を行き止まりにする山などは見えない。時々、建物の向こうに、不穏な形をした小山が頭を覗かせるだけだ。広々とした朝の光景の中、人々は歩いていた。歩いていて、そこにいた。
 水橋は、少し進んでは角を曲がり、また進んでは角を曲がって、どんどん奥の方へと入っていく。いつの間にか、日は青空の真上近くに昇っていたようだ。突然目の前に現れた中学校のグラウンドでは、陸上部だろうか、炎天下のトラックを何周も走っている集団がいた。砂の舞う地面の上、いくつもの身体と足音、そして全員のかけ声が、遠ざかっていく、ゆるやかなカーブを描いて戻ってくる、しばらく真っ直ぐ走ってきて、またこちら側でカーブを描きつつ、もう、次第に遠ざかっている。そのグラウンドの辺縁をかすめるような気持ちで、水橋は中学校の前の歩道を歩いていく。
 それからまた何回か曲がりながら進むうち、道の際に立つ建物は再び大きくなってきて、水橋は幅の広い通りに行き当たった。横断歩道を渡りきった向こう岸は、民家の立ち並ぶ住宅地だった。この景色ならバスの中から見たことがある、と水橋は思う。新千歳空港から札幌に向かうバスの中から、水橋はこれに似た景色を眺めていた。アメリカの開拓時代の形式を取り入れた民家は、傾斜の急な屋根と造りの頑丈な窓ばかりが目立ち、四角ばった建物それ自体はかえって小さく感じられた。バスから見ていると、それらはまるで、規則正しく立てて並べられたマッチ箱のようだった。
 建物に対して庭や空き地があまりにも広いことも、バスから見ている水橋の目を引きつけた。それは、家が庭を持っていると言うよりは、あてどない風土の上にかろうじて家が乗っている、といった感じだった。バスが千歳市を過ぎて恵庭市に入った時、水橋はその広すぎる庭に生えているイトススキに気がついた。しずかな風に揺られながら、その細い細いススキの群生は、今にも夕暮れにかき消えてしまいそうだった。
 今、その時の景色が目の前にある。歩きながら見る家も、やはり四角ばっていて小さく感じられたが、その小ささは、重かった。急な屋根と頑丈な窓との重みを抱えて、分厚い壁の内へ内へと力を蓄えていく、そんな印象を受けた。冬には、この家の庇からも長くつららが垂れ下がるのだろう。水橋は、二月の石狩で見た、雪に埋もれた暗い民家を思い出した。あの時、僕は歩いていた。そして今も、歩いている。
 二、三軒先の家のガレージから、オレンジ色の原付を押して女性が一人、出てきた。銀色のヘルメットの円い輪郭が、日差しをまぶしく弾き返している。女性は、水橋の方を少し見た。水橋と同じで、大学生のようだった。軽く会釈を交わした後、女性は原付にまたがると、エンジンをかけ、そのまま道の上を向こうへと走り去っていった。少ししてから、一台の自動車が水橋の横を通り抜けた。自動車は、原付の走りに吸い寄せられるかのように、その後をついていく。二つの後ろ姿は、ともに小さくなり、やがて影かスピードそのもののようになって、道のずっと遠くで一つに重なった。その同じ道を、水橋も自分の足で、歩いていく。
 何かの音が聞こえた気がして周囲を見回したが、辺りには、広すぎる庭で揺れる草以外、動くものは何も見当たらない。水橋は、また前を向いた。自分が鼻歌を歌っていることに気がついたのは、その時だった。

 暑い盛りを歩いてくぐり抜けてきた。今、日は大空の西に傾き切って、仄白んだ青に懸かりながらゆっくり落ちてきている。
 昼過ぎには汗ばんでいた肌も、もう乾いている。足取りは少し重く、身体全体を、ほどよい疲れがやさしく包む。目に映る光景は、どこか遠く、涼しかった。弱まった日差しは、今はオレンジ色の淡い光となって、そこにある草を、家を、道を、木を、人を、車を、雲を、電信柱を、犬を、空を、靴を、そして声や音までも、果てしなく水平に照らしている。澄み切った夕べの空気が、水橋の腕をさびしくさせた。あらゆるものの輪郭は、黄昏のほの暗さに紛れるどころか、むしろ鮮やかに縁取られて佇み、佇みながら、しずかな光を放っていた。そして、その光の中で、輪郭は溶け出すようにほどかれていく。風が吹いていた。風は、かすかに色づいていて、まぶしかった。
 僕は今、ここで、一人でいる。風を受けて歩きながら、水橋はそう感じ取っていた。目を瞑り、深呼吸する。息を吐き出すと、自分もほどかれたように軽くなった。そして目を開ける。景色はさっきと変わらず、そこにあった。そこにあって、風に揺れていた。そのことが、水橋にはこの上なくうれしかった。
 駅へと帰る途中だった。鼻歌はいつしか止んでいた。それに気づいてふたたび歌い出そうとしたものの、水橋は、自分が何を歌っていたのか、うまく思い出せなかった。のびやかで、逞しい歌だったと思う。一日目、バスが山の中を走っているくらいの時分に、その歌が湧き上がるようにして聞こえてきた。今朝の電車の中でも、いつからか断続的に聞こえていた気がする。とは言え、これらの記憶ももちろん、後からでっち上げられたものなのかもしれない。水橋はその危険性を十分知っていた。しかし、さっきまでその歌を歌っていたという、自分の胸に残るこの感覚だけは間違いではない。決して間違いではない。水橋はそう信じた。そして、ふたたび目を瞑って、深呼吸をした。
 目を開くと、川が流れていた。道の少し先に、歩道の外側に立った白い手すりが見え、それは欄干でどうやらそこには橋が架かっていて、その橋の下に、川があった。左手から右手へと、川はゆらゆらと輝きながら流れている。幅が広く、色が暗かったが、水深はそんなにあるわけでもないらしい。上から見た限り、川底は平らだった。両岸には護岸工事が施され、二段になった土手を登ったところには、街路樹が横一列に並んで枝を広げている。木々のすぐ向こうには、住宅街が横たわっていた。
 住宅街は、川の向こう側いっぱいに広がっていた。それはまるで、染み出した水が周囲を宛てもなく浸していったような広がり方だった。そのため、水橋には、街路樹は川の氾濫から家を守っているのではなく、むしろ、家が川の中に流れ込んでくるのをギリギリで塞き止めているのではないか、と思われた。住宅の白と、木々の緑と、空に残る青と、そしてそれらすべてを淡く包み込んでいる夕日のオレンジと。閉じられることのない景色の中、川はその景色さえ通り抜けて、ずっと遠くからずっと遠くまで、止むこともなく流れていた。
 どこから流れてきたのか、どこに流れていくのか。どれだけ見晴らしても、川の両端は見えなかった。風が吹いていた。風は時々、水橋の周りで小さく渦を巻き、散り散りになって風下に消えていく。じっと川と景色とを眺めた後、水橋はゆっくりと歩き始めた。橋の向こうには、犬を連れた背筋の真っ直ぐな老人がいて、こちらにむかって歩みを進めている。水橋とすれ違う時、老人はにこやかにほほ笑んで頭を下げた。水橋も頭を下げた。北海道に来てから初めての、ほころぶような自然な笑顔が、彼の顔から足元の川へと、手紙みたいに落下していった。

2005年8月28日日曜日

[おすすめリンク]色見本の館


色んな色とその名前が見られるサイトです。

「色見本の館」http://www.color-guide.com/

見ているだけで、世界の果てしない多様性や、
それに挑む言葉の全力の創造性などを感じられて、
不思議な気持ちになります。詩人なら、必見(?)

あと、小説の下調べでも、けっこう重宝します。

2005年8月22日月曜日

生鮭喰い


どっちでもいい。
夕暮れはあかい。
足元の川にこぼれる肉片、

どっちでもいい。
滴る血はあかい。
僕らの短い爪と鼻の先の、

背中。
黒い森の暮れ方に燃える、
僕らには聞こえない愛を叫びながら。

燃える。燃え上がる。
けれど熱くはないから、
僕らはそれを剥ぐ。簡単に。

その中の肉が、
旨い
のだ。


どっちでもいい。
生命は美しいか、
生命は汚いのか。

どっちでもいい。
鮭は何かの比喩であるか、
夕空の赤は血の赤よりも残酷か。

僕は川に入り、捕まえて、食う。
こぼれ落ちる肉片と、
滴る血。黄昏の空はすでに涼しく、

僕は川に入り、捕まえて、食う。その度ごとに、
何を思ってか、黒い森の四方から、
けたたましく湧き上がる人間の嬌声。

2005年8月21日日曜日

「Ishkar」 scene 10


 座席の近くに誰かが立った時、水橋は窓の外で流れていく景色を眺めていた。気配を感じて目を通路側に向けると、赤いシャツを着た男の胸と肩とが見えた。
 「隣、空いてますか?」
 男はやせていて、たぶん四十一、ニ歳くらいだった。髪が短く、メガネをかけていた。
 「ええ、どうぞ」
 景色を見ているのとあまり変わらない気分で、水橋は答えた。男は「ありがとうございます」と言いながら、水橋の隣に腰かける。水橋はまた外の景色を見ていた。男は水橋の横と言うか後ろと言うか微妙な位置で、シートにいっぱいにもたれてほっとしたようなため息をつき、少し姿勢を正してから、カバンから猛然とノートを取り出して何かを書き始めた。先の細いペンが、カリカリカリカリ紙の上で音を立てつづける。
 水橋は何を書いているのか気になって、ノートの方を盗み見た。それは、散文のようだった。黒色の水性ボールペンで、ノートの幅いっぱいに文字が横に連ねられていく。そして、次の行、また次の行。何のことを書いているのか、横から盗み見ている水橋の目には、詳しく読み取ることはできなかった。
 「僕、小説を書いているんです」
 男がそう語り始めたのは、電車が新札幌駅を出てかなり行ってからのことだった。水橋はその時、札幌駅で一緒に乗り込んだ高校生の方を、見るともなしに眺めていた。高校生はネックフォンをかけ、新型の携帯音楽プレイヤーか何かで、音楽を聴いている。手に持った情報誌の表紙には、輪郭のさっぱりとした薄型テレビや、どこか有機的な丸みのあるシンプルな椅子などが並んでいた。それらの写真はどれも小さくて、互いに入り乱れることもなく、格子状に区分けされたそれぞれの領域の中に落ち着いている。
 「へえ、そうなんですか」水橋は、男の方に少し首をひねって、返事した。「どんな小説を書いているんですか?」
 「現代の諸問題の深層をえぐる、人間ドラマです」男は、迷うこともなくそう答える。「それで、今は、取材旅行に来ているんです」
 「取材旅行? 北海道の、……え? なんで北海道の?」
 水橋にはよくわからなかった。取材旅行と言うのが何かもよくわからないし、北海道の何を取材するのか、そしてそもそも、なぜ北海道を取材するのか、彼には見当がつかなかった。
 「やっぱり、今こそ北海道でしょう。知床の世界遺産登録、北海道新幹線の起工、それに、甲子園での駒大苫小牧の夏連覇!」
 男の声が大きくて、水橋はなぜか恥ずかしい思いをした。興奮する彼の様子が、この電車や外の風景から、あまりにも遊離している気がする。女の子は、今は自分の履いている靴や靴下の方をじっと眺めていた。そう思ううちに、バネが跳ね上がるような唐突さで、窓の外に両の視線を投げかける。その目は真剣で、あまりに真剣でどこかおそろしくて、そのおそろしさがとても美しかった。水橋は隣の男のことも忘れて、その、遠くを見るまなざしに見とれていた。

 「その主人公はね、父親はいなくて、ずっと母親にいじめられて育ってきたわけなんですよ」
 電車が北広島の駅で停まっている間、さすがに男は黙っていた。しかし、数人の乗客が降り、新しい乗客が車両に顔を見せ、そうして電車が再び走り出すと、男はまた、待っていたかのように話を再開した。それが何の話だったか、水橋にはもうわからなくなっていた。
 「ここらへん、今の児童虐待をテーマにしているんですよね」
 控え目に微笑むその笑顔に、どこか自信の色が見える気がした。窓の外には、ところどころに寄り集まりながら散らばる家と、ぽつり、ぽつり、と生えているこんもりとした木々が見えるだけで、それ以外の場所には平らな地面が、特に何のためというわけでもなく、ただ、開けていた。
 「それで、彼は大学生になって、偶然知ることになるんです。彼の父親が、今は北海道で住んでいる、と。なぜ父と母は別れたか、なぜ父は自分から遠く離れたのか。それを知りたくて、彼は北海道に向かう。けれど、そこで過酷な運命が待っているんですね。どういうことだったと思います?」
 高校生は、情報誌をバッグにしまって、また、ケータイをいじっていた。しばらくして、そのケータイで電話をかけ始める。隣の男は、水橋の返事を待ちながら、高校生に向かって露骨に眉をひそめた。話題は、駒大苫小牧高校の甲子園連覇のことらしかった。
 「いやあ、……あれはほんとすごいっしょ。信じられない」まるで自分のことのように、まぶしい笑顔で笑っている。「だって、冬なんて雪で雪で、グラウンドなんてカンペキ埋まってしまってるのに。ノックもランニングも、どこでやるんだってくらいだし」
 「なんと、父親は、殺人犯だったんです。それも、母親の無二の親友を強姦して殺してしまったんですよ」
 痺れを切らしたように、男が話をつづけていく。しかし水橋は、話の切れ目ごとに生返事をするのが、精一杯だった。
 「……だべ? ほんと、連覇はありえないって。去年もたまげて、涙出そうなくらい感動して、したら、今年も優勝って、……なあ、もう、最高すぎ」
 高校生は、そう言った後で、右手に持っていたケータイを左手に持ちかえた。その一瞬、水橋の目に、高校生の赤く破れた厚い掌が飛び込んでくる。
 この人も野球をしてるんだな、と、水橋は思った。車両の一番前で立つ彼の、痛々しいまでの傷と、よく焼けた肌。「ノックもランニングも、どこでやるんだってくらい」の冬も越えて、立派に鍛え上げられてきた体格のしずかさと、それとは不釣合いなくらいに弾ける、若々しい笑み。自分の見てきた伊賀や京都と同じく、ここにも野球に励む高校生がいて、そして、生身の人間として生きている。そんな当たり前のことが、水橋を強く強く打ち据えた。
 窓の外の景色の、すき間のように広がっていた地面を、真っ白な雪が分厚く埋めていく。家々の中では火が焚かれ、門の前や屋根の上で、雪かきに汗を流す人もいた。あてもなく建っていたような家は、今は頑丈な防壁となって人々を囲み、強大すぎる雪の侵攻から人間をどうにか守り抜こうとしている。除雪車によって均された車道の上を、ごくまれに車が走っていくのが、長く長く望まれた。空は頻りに閉じられて、それから二日や三日の間はずっと、粉みたいな雪が延々と風に狂いつづける。
 その中で、人は生きていく。時々は笑い、時々は泣く、――そんな普通の表情を、自分の顔に次第に深く染み入らせながら。起き、眠り、食べ、排泄する。水を飲む。怪我もするし、恋もするし、時には具合も悪くなるし、歳もとる。走って息を弾ませることもあるだろう。彼らも生身で、生身の身体で、生きている。自分の場所で。一人の人間として。
 そしてそれは、夏の北海道でも、何も変わらないはずなのだ。高校生の赤い掌を思い出しながら、水橋はそう考えていた。外の景色に雪はなく、陽はどこまでも穏やかだった。走っていく電車の中からは、人々の姿は見ることができない。しかし、それでもここには人がいて、彼らの生きる、毎日の生活と人生とが息づいているのだ、きっと。水橋は、その、北海道の命の息遣いを、もっと肌身で感じたいと思った。
 「……まあ、そういう経緯で、主人公は生まれたんですね。で、それを知って、当然ながら悩むわけです。だって、自分が残虐な殺人犯の息子なんですから。人間の極限状況ですよ。これ、実は三浦綾子の『氷点』のテーマと重なるものでもあるんですけど。『氷点』、読んだことあります?」
 女の子は、外の景色にも飽きたのか、両親の持った旅行ガイドの表紙をじっと見つめていた。そして、ため息を一つつくと、電車の中を見回し始めた。思い出したように、水橋の方を向く。水橋は、今度は自分から、女の子に笑いかけた。女の子は、少し怪訝そうな顔をしてから、小さく笑顔を返してきた。そしてまた、両親の方に向き直る。
 車両の一番前、こちらに向かって立っている高校生は、目を瞑り、ネックフォンから聞こえる音楽に、ゆったりゆったり首を揺らしていた。

 ――うらやましいですね。
 「は?」
 ――自分がどうして生まれたか、自分がどうしてここにいるのか。それを知ることができるというのは、そしてそれを信じることができるというのは、正直うらやましいことだと思います。僕はそれがわからなくて、というか、むしろそれがなくなってしまったような気がして、それで苦しんでいるんですから。
 「……何ですか、それ。それは、彼の苦しみを知らない人の、勝手な言い草ですよ。大体、彼の苦しみを、あなたは想像することもできないでしょう。今の若い人は個人主義的で、自分のことしか考えませんからね」
 ――そうかもしれませんね。でも、あなただって彼の苦しみを知らないでしょう。あなたは作者であって、彼自身ではない。もしかしたら彼も、本当はそのことに苦しんでいるのかもしれません。自分が誰かに作られたものであって、自分に降りかかる苦しみでさえ、それは誰かに書かれたものである。自分の人生を、自分が生きられていない。何ていうか、そういう、事実に。
 「だって、それが小説でしょう。……それに、あれですよ。僕らはみんな、誰かによってどこかに産まれたわけですよね。それなのに、あなたみたいなことを言ってたら、誰も彼もが、自分の人生を生きられないことになりますよ」
 ――そうですね。
 「みんな、それぞれの人生を歩んでるんです。馬鹿にしちゃいけません。それを放棄しているのは、ニートとかオタクとか、あなたみたいなモラトリアム人間ばかりだ。現に僕は、誰に縛られることもなく、自分の人生を歩んでいるんです」
 ――そうでしょうか。
 「そうでしょうか、ではありませんよ。僕らは自分の人生の登場人物じゃなくて、作者なんです。僕は、電車を降りますよ。自分の人生を生きる者として、この電車を降ります」
 ――僕も、もう少し先の駅で降りることにします。それで、最後に一つ、聞かせてもらえませんか?
 「ちょっと、……おい。どこを向いて話しているんだ」
 ――作者は、作品から自由なんですか? 登場人物は、作品の中に本当に生きているんですか? 僕らは、どこにいるんですか? どうすれば、一体どうすれば、僕らは僕らとして存在できるのですか?

2005年8月16日火曜日

「Ishkar」 scene 9


 さっぽろ駅に着いた。黒と暗褐色の壁に囲まれた駅構内を出て、白とサックスブルーの地下街を歩く。周囲の明るさは変わっても、道幅の広さと床の明るさは変わらなかった。湿度は低く、目に触れてくるものの肌合いはどれもさっぱりしていて、清潔だった。水橋は、自分の足音が聞こえないことにぼんやりと気がついている。重さも軽さもない歩みが、まぶしくてだだっ広い地下の通路に、空気みたいなテンポで重ねられていく。
 地下街を抜けて長いエスカレーターを昇る。歩くことなく、上の方を眺めがら乗りつづけると、前方に外の光が見え始めていた。その光が照明の光と交じり合いながら、やさしく包み込む。歩かなかった。地上だった。水橋はエスカレーターから降りた。そのままJR札幌駅構内に向かうこともできたが、彼はその直線的なルートから外れ、駅前の広場に進んでいった。
 広場には、何もなかった。いや、実際は、広場を突っ切って道が南に伸び、その両側には灰色の石柱が、均整を保って並んでいる。柱のさらに外側、地下街へ降りていく部分には、ガラス製の四角い建物が建っていて、朝の日の光をしずかに反射していた。道の向こうには、枝を広げる緑の木々と駅前通の入り口とが合わさって見え、そこから先は、巨大なビル群が通りを左右から挟みこむように迫り出して、ずっと遠くまで真っ直ぐ立ち並んでいる。左後方を振り向けば、愛嬌のある形をしたガラスドームが、青みがかった光を放っていた。
 しかし、やはり、広場には何もなかった。たくさんの物に囲まれて、広場は景観の中になじんでいくどころか、むしろ、その剥き出しの平らさを晒していた。物があって、何もない。どんなオブジェもその大地を支配することができず、逆に、オブジェを越えて地面そのものが、空白の荒々しさで浮かび上がってくるようだった。物はその地面の上に、今にもかき消されそうになりながら、かろうじて乗っている。ここでは自分もそうなのだ。水橋は、そう思った。
 見上げると札幌駅ビルは、右に背の高いオフィスタワー、左にヨーロッパ風の百貨店を従えて、大きすぎるケーキ箱みたいにそこに置かれてある。

 ホームは、暗く、湿っていた。JR札幌駅二階。一番ホームから十番ホームまでを一挙に含み込む内部空間は、そのために十分すぎるどころか、かえって無駄にさえ思えるほどの幅、奥行き、高さを持っていた。しかし、造りはどこか粗末だった。光はほとんど差し込まず、地面は濡れていて、壁や天井は陰鬱な色に朽ちている。窓や、線路のずっと先の方から差し込んでいる光も、ホームを明るく照らし出したりはしない。むしろその光は、まるで古ぼけた炭小屋の屋根板のすき間から落ちてきているみたいで、その光のせいで、内部の粗末さが余計に顕わになるように感じられた。
 それぞれのホームには、目を少し上げればすぐに見える辺りの中空に、ロープが張られている。そこには色分けされた小さなプラスチックカードが何枚も懸かり、カードには「スーパーおおぞら」、「スーパー北斗」、「エアポート」など、様々な特急・急行・快速列車の名前らしいものが書かれてあった。その下に書かれてある番号と組み合わせて、各列車各車両の乗車位置がわかる仕組みらしい。
 水橋は、「エアポート」のカードの下に並んで、周囲を眺めていた。これまで見てきた北海道とは別の北海道があるようで、水橋は、自分の気持ちが次第に身を屈め、自分の胸を抱え込むように黙りこくっていくのを、感じた。この、背骨が押しつぶされそうなほどに重い、暗さ。その内部にみっしりと籠もっている、発せられない無音のうめき。藍の着物を着た男の、曲がった背中がふたたび水橋の目によみがえった。
 息継ぎをするように、水橋は辺りを見回した。まだ朝早くであることもあり、人は少ない。しかし、もっといてもいいはずのサラリーマンやOLが、ほとんどいないのは気にかかった。
 しばらく考えてみて、水橋は今日が土曜日であることに思い当たった。とうとう曜日感覚もなくしてしまったか、と自分に苦笑いする。暗く湿ったホームには、早起きの観光客や部活の試合に向かう高校生、それにどこに行くのか、一人二人で立っている若者が見えるばかりだった。
 水橋の隣を、小学生くらいの女の子が駆け抜けていく。ホームの縁ギリギリまで行って、線路を覗き込み、少し後ろに下がって自分の足元を見つめ、それから顔を上げて前に進んでもう一度線路を覗き込んだ。「危ないなあ。落ちたりせえへんのかなあ」と、水橋は関西弁で心配しながら、その一部始終を見守っていた。すると、子どもが急にこちらを振り返った。満面の笑みだった。
 「ミズエ、ほら、危ないよ。こっちに戻ってって」
 母親らしい女性から声がかかり、ミズエと呼ばれたその子は戻っていった。両親は、二人で観光案内に見入っていたらしい。父親は今にもハイキングに行きそうなかっこうをしていて、その手に持った冊子の表紙では、カラフルに彩られた文字の下、乳牛が緑の草を食んでいる。
 三人の向こうでは、よく日焼けした高校生が一人、大きなスポーツバッグを肩からぶら提げて立っていた。その高校生は、周囲の物事にまるで関心がないように、手元のケータイをずっと触りつづけていた。屋根の向こうでは、今、雲が太陽と建物との間を、次々横切っているのだろうか。毀れるように差し込んでくる日の光が、様々に陰り、様々に照る。しかし、高校生はその変化を見ようともせず、目の前にある陰鬱な壁にも興味を示さずに、手の中に持った小さなディスプレイへと、若い首を折り曲げている。
 こういうものかもしれない、と水橋は思った。普通の人にとって、北海道とは、こういうものかもしれない。通り過ぎていくだけの観光客からすれば、それはただ自分が楽しむための観光地でしかなく、一方、そこに前から住む人間にしてみれば、それは何もめずらしくないいつもの背景なのだろう。きっと、それで普通なのだ。それで普通なのに、僕は、その二つの間にはまり込んでしまった。
 彼らと僕との違いは何なのか。彼らにあって僕にないのは、一体何なのか。ぐるぐると考えつづけるうちに電車は着いて、水橋は他の乗客と一緒に車両に乗り込んだ。彼は車両の左後方、窓側の席に座り、さっきの家族連れはそこから二つ前、通路を挟んで右側の席に座った。高校生は、車両の一番前に立ち、引き戸に背をもたせかけて――つまり、水橋の方を向くかっこうで、――ケータイをいじりつづけている。ミズエと呼ばれた女の子は、電車に乗った後も落ち着かなくて、窓に顔をつけて外を眺めたり、急に座席から降りて通路を行ったり来たりした。何かの拍子に、水橋と目が合うことが何回かあった。その度に、その子は何を思ってか、うれしそうな笑みを浮かべた。

2005年8月14日日曜日

「Ishkar」 scene 8


 足音が聞こえる。洗面所の方から、ひたひたと戻ってくる。ずいぶん長く、鏡の前にいたらしい。蛇口がひねられ、水が流れる音、また蛇口がひねられ、水が止まる音。しずかに動く手の気配や、軽く叩かれる顔の肌のみずみずしさまでが、聞こえていた。そして今、それらすべての音は止んで、足音だけがこちらに戻ってくる。
 野坂が部屋に帰ってきたのは、朝六時過ぎになってからだった。フローリングの上に敷かれた布団で眠りながら、水橋はそのことに気づいていた。野坂が鍵を外し、ドアを開け、入ってきてドアを閉め、靴を脱ぎながら鍵をかける、そして椅子のところまで歩いてきて腰をかけ、しばらくして、ため息を何回かつく。長らく座った後、ゆっくりと立ち上がって風呂場の方へと歩いていく。その、切れ目なく過ぎていく時間に合わせて、水橋の意識も次第に醒めていた。
 洗面所から戻ってきた野坂は、水橋の背中近くで立ち止まった。水橋は目を瞑ったまま、自分が野坂に見られているのではないか、と感じた。それは最初、息が詰まるような感覚だったが、いつしか安心に変わり、部屋の中は朝の空気に満ちていて、水橋の背中側にある部屋の方から野坂の寝息が聞こえてきた。水橋は音を立てないように立ち上がった。振り返るとベッドの上で、すっぴんの野坂がかすかに口を開けて眠りこけている。
 部屋を出て、野坂がくれた合鍵で鍵を閉めた。そして、地下鉄の駅へと歩いていく。北海道に来てから、四日目の朝だった。一日目は新千歳空港から札幌まで来て、すすきののピンサロで野坂と会った。二日目は北海道庁旧本庁舎や時計台、それに大通公園などを周り、夜は野坂の部屋に泊まった。そして、昨日は、何をしたのだろうか。野坂は昼過ぎから部屋を空けた。それからずっと、部屋の中で寝たり起きたり、時には外をうろついてみたりしただけで、特に成すこともなく一日が過ぎた。その何もない一日の長さあるいは短さを思い、水橋は悲しくなった。薄暗くもすっきりとした地下鉄の階段を降りながら、彼は昨日のような一日が、昨日を越えて今日へ、今日を越えて明日へと、区切られることもなくつづいているような気がしていた。
 北海道に着いたばかりの頃は、水橋にも強い思いがあった。カタカタ鳴りつづける封筒。それをどうにかしなければ、という焦りにも似た感情があった。とはいえ、どうすればいいのか、宛ては最初からなかった。ただ、北海道を旅するうちに、何かが見えてくるに違いない、と漠然と予感していた。
 なぜ、北海道なのか。確たる理由はない。あえて挙げれば、封筒に書かれている最初の住所が北海道石狩市だったことだろうか。しかし、そこに封筒を渡すべき「北野菜穂」がいるとは、水橋も思ってはいなかった。もしかしたら、自分の中でつづく歪んだ記憶、果てもなく伸びていく石狩の雪道に、何らかの答えを見つけたかったのかもしれない。とにかく、北海道に行けば何かがある、何かがわかるはずだ。鳴りつづける封筒の音に急かされながら、そう、水橋は考えていた。
 しかし、封筒の音は止んでしまった。最初は、また聞こえなくなっただけだろう、と思った。封筒の音は鳴っていて、ただ、自分がそれを聞けていないだけだろう。水橋はそう簡単に思っていた。しかし、いつまでたっても封筒はしずかだった。試しに振ってみても、カタリとも言わない。手に持ったそれはあまりに軽く、何も中に入っていないみたいだ。水橋はいつしか、これまで聞こえていた音の方が間違いで、本当は最初から、封筒はしずかなままだったんじゃないか、と疑い始めていた。
 北十八条の駅に、電車が到着した。タイヤで走る地下鉄の、独特の唸り声。銀色の車体。白い内壁。鮮やかな橙色のロングシート。自動ドアが開いて、何人もの乗客とともに、水橋も電車の中に踏み込んでいく。
 札幌市営地下鉄は、輪切りにした時に断面が六角形になるような、特徴のある形をしていた。そのため、車両の中で立っていると、どこか真っ直ぐに立っていられなくなってきて、水橋はピカピカ光る手すりにしっかりつかまった。向こう側へと引っ込んでいく、平らな窓の向こうは真っ暗だ。乗客のほとんどは、橙色のシートにしずかに腰を落ち着けている。タイヤのゴムの立てる音が、小さく、切れ目なく、つづく。
 なぜ僕はここにいるのか。封筒の音が失われた今、水橋は自分が、北海道にいるための根拠をなくしてしまったことを知った。彼の存在は、ただ空気を包んでいるだけの封筒のように軽く、無意味だった。
 全く無根拠にここにいる以上、いかなる理由を以ってしても、ここを離れることは不可能なのだ。無根拠に適う根拠はない。根拠があれば、それに対抗する根拠を見出せばいいだけの話だし、目的があれば、それを果たせばその場所は終わる。しかし、自分が無根拠にここに存在する場合、その存在はどうしたって拭い去ることはできず、自分が今いるこの場所は、そこから先にいかなる場所も持たない、行く宛てのない無限の広野となってしまう。地の果てを持つ大地。地の果てがあるがゆえに、余計に途方もなく広がっていく北海道の空と土。この年の七月、アイヌの言葉で地の果てを意味する「知床」が、日本で三つ目の世界自然遺産に登録された。
 野坂は、思い出話を出し尽くした後、水橋に対して急に冷たくなった。それまでのように過去とともに水橋を見るのではなく、ただ、現在の水橋を見るようになったからかもしれない。自分の部屋に彼がいることが、邪魔とは言わないまでも、どこかしっくり来ないようだった。絶えず加減悪そうに野坂はうろついた。
 「まだ、当分道内にいるの?」
 水橋がうなづくと、野坂は喜ぶことも嫌がることもなく、「じゃあ」と言った。
 「じゃあ、二十八日、空けといてくれる? 一緒に見に行きたいものがあるんだ」
 水橋はまたうなづいた。野坂は薄手のキャミソールに無表情を纏い込んで、昼過ぎには部屋を出て行った。
 とりあえず空港へ。水橋は、そう考えていた。地下鉄でさっぽろに出て、快速エアポートで新千歳空港に向かう。そこからもう一度旅をやり直せば、きっと何かがみつかるはずだ。この旅を通じてポロポロ落としてきたものを、水橋はひとつひとつ、自分の手に拾い集めて行きたかった。

2005年8月7日日曜日

「Ishkar」 scene 7 (後半)


 気がつくと、野坂は天板の上に置かれた水橋の手の甲を眺めていた。いや、実際のところ、その視線は手の甲までは届かず、彼女の目と水橋の手の甲との間の中空で、宛てもなく留まっている。昨晩、すすきのの居酒屋でも、彼女は同じような目をしていた。そう、水橋は思い出す。じゃがチーズとかサーモンのカルパッチョとかをさんざん突っつき、思い出せる限りの思い出話を語った後で、野坂は不意に斜め下の方を眺めて沈黙し、しばらくして、ふと、悲しそうな笑顔を浮かべた。
 「どうしてなんだろ? おんなじ思い出を持つ人といると、こんなに安心してしまうのは」そこまで言って、また空っぽになる。しばらくしてまた笑い、斜め下を向いたままで、こう付け加えた。「何だか、この安心が、どうしようもなく切ないよ」
 「わたしね、野坂夕香っていうの。小さい頃、コージくんと同じ小学校にいたんだけど、覚えてないよね?」
 一人目の女で射精したと言うのに、三人目の口の中で、水橋の性器はまた精液を噴き出した。まるでそれが別の生き物であるかのような、制御できない痙攣が済んでから、女はゆっくりと口を性器から離し、吐き出されたばかりの精液をおしぼりの上に移し取った。そして、新しいおしぼりで、口を拭う。女が自分の名を名乗ったのは、その時だった。
 「覚えてないよね、やっぱり。わたしだって、コージくんの顔見るまで忘れてたんだから」
 「……いや、覚えてるよ。野坂さんだろ。たしか、二年生から五年生までの間、うちの学校に転校してきていたよね」
 「そうそう! そうだった、そうだった」
 「たしか、二人で天神さんのところを歩いている時にさ、伊賀に忍者ってもういないんだね、って残念そうに言った。……うん。よく、覚えてるよ」
 「そうなんだあ! うれしいなあ」
 こうやって話す間にも、カゴから取り出された新しいおしぼりで、野坂は水橋の性器を丁寧に拭っていた。そして、裸の下半身に両手で下着をはかせ、ズボンもはかせる。水橋は立ち上がって、ベルトを締め始めた。その時、野坂が水橋の頬に向けて、唇を近づけてきた。キスではなかった。耳元に彼女の息がかかり、かすかな声で、ケータイの電話番号がつぶやかれる。
 「わたしのケータイだから。ここにいるうちに電話してね、絶対」そう言って、野坂はさっと水橋から離れた。穏やかな笑顔を浮かべながら、真正面から、水橋と向かい合う。「勘違いしないでよ。営業トークなんかじゃないからね」
 そしてまた、満面の笑み。

 歩いていた。天板の上には封筒だけが置かれ、キッチンで野坂が皿とコップを洗っている。歩いていた。カタカタという封筒の音を、水橋も野坂も昨晩からずっと聞いていた。しかし、お互い、そのことについてはもう何も言わなかった。歩いていた。朝のすすきのを通り過ぎる人々。藍染を着た男の、曲がった背中。平坦な照明と螺旋階段。泥炭地。赤レンガから見る緑と大通り。バスの中でしずかに前を向いている人々。一人目の女、二人目の女、三人目の女。それらすべてが、粉のように細かい雪になって舞い狂い、地面に積もってはまた風に巻き上げられる。歩いていた。歩いている。この地方一帯を、いくつもの支流に枝分かれしながら流れ、隅々まで潤していく大河、石狩。しかし、そこを歩いていく水橋の目には、川は見えなかった。ヘリコプターから撮られた写真のように、僕らは生きているわけではない。
 右手には雪に覆われた堤防が遠ざかるように見え、ゆるくカーブを描いて左前方へと曲がっていった。封筒の上には、いくつもの赤いスタンプが押されてある。「あて所に尋ね/あたりません」。そこに広がる、終わることのない金色の薄野。あるいはすき間。地の果てを持つ北の大地は、そこより他にどこにも行けないことにより、かえって果てしなく広がっていくようだった。ここは、どこなのだ。
 「……でも、やっぱりどうしようもないですね。住所と名前がわからないと、どうしようもないですね」
 いま、この文章を打っているインターネット喫茶には、人が少ない。あちらこちらに散らばって、四人ほどの人間がマンガを読んでいるのだろうか。大体の席は空いていた。僕の隣では、薄いついたての向こうで、男が一人、アダルトサイトを眺めている。カウンターの男子店員はつまらなさそうに立ち尽くしたままだ。男が眺めるPCの上で、モロ出しの性器が、往復運動を繰り返している。男は無感動な表情で、その動画を何回も再生している。PCの時計は二十三時四十七分を表示しているが、この表示があっているのかどうか、僕にはわからない。
 野坂が帰ってきた。コタツの向こう側に座り、「お待たせ」と軽い声で、言う。水橋は、「ごめん」と言って小さく笑った。「とうきび、おいしかった」
 別ウィンドウで開いている、投稿小説のホームページでは、いま、チャットが盛んに行われている。小説を書いているというたくさんの人々が、今日は暑いとかなんとか言うことを、それぞれに色分けされサイズも変わる文字を使って、賑やかに会話している。別に、誰が誰でも変わらない、と水橋は思った。いや、僕が思ったのだ。僕は、あをの過程という名前でチャット室にログインして、一通りの挨拶をした後はずっと、書き込みもせずに窓を開いたままにしている。僕がどこにいて、書き込みをしない間に何をしているか、チャット室にいるほとんどの人は知ろうともしないだろう。
 いや、そもそも、そこには本当に人がいるのだろうか。チャット室というこの場所には、結局のところ、誰もいないのではないだろうか。同じ表情をして同じことばかり喋ろうとする文字を、色とサイズでどうにか差異化しながら、チャットの話題は、いつしか海の話に移っていた。
 人は、どこに行ってしまったのか。僕らは、一体、どこにいるのだろうか。僕らの平野に、それを縫って流れる川は、本当に、あるのだろうか。
 気がつけば、封筒の音は、もう聞こえなくなっていた。歩いていた。歩いていた。歩いていた。歩いている。視界を遮るものは何もないはずなのに、たしかにさっきまで雪景色のどこかにぽつんと立っていた灯台が、今はない。それでも、水橋は歩きつづけていた。ただ、吹き荒れる風の音と自分の息の音だけが聞こえる。鉄色の空を、いやに白い雲が吹き飛ばされるように通り過ぎていった。
 「これから、どうするの?」
 野坂が訊いた。
 「わからない」
 水橋はそう答えた。そしてそれは、僕も同じだった。

「Ishkar」 scene 7 (前半)


 歩いていた。踏み出す足はその度に雪の中に埋まり、引き抜いた跡には時折、凍った緑の草が覗く時もあった。歩いていた。ずっと前から、粉のような積雪と吹き上げる地吹雪とで、ズボンの裾は白くうすく凍てついている。歩いていた。見上げる空は一面の鉄色で、そのあまりに重々しい平坦さは、どこまで行っても開けて来そうに思えなかった。というより、その鉄色がどこかで果てると考えることは、空が果てると考えることと同じくらい無理なことに思われた。歩いていた。歩いている。右手には雪に覆われた堤防が遠ざかるように見え、ゆるくカーブを描いて左前方へと曲がっていっていた。目の前にただある、そのなだらかな曲線の向こうに川はあったのか。雪と雲とで薄く紫がかった中空を眺めながら、水橋孝司は、うまく思い出せないでいた。
 いま、彼の目の前には、覆いを取り払ったコタツがある。ねずみ色した天板の上に、封筒と皿とが乗っていて、卓上から除けられた置時計は、本棚の一角で九時十六分を指している。部屋の中はすでに明るい。ついたてのように張り出した壁に隠れて、向こうの部屋の少し高いところで、オーブントースターが回っていた。姿は見えず、その音ばかりが聞こえている。二人分のパンはまだ焼けないらしい。
 歩いていた。抜け殻みたいな朝のすすきのを、それでもどこかへと歩いていくいくつもの人体があった。言葉を交わし、あるいは一人で黙ったままで、うつむき加減に急ぎ足で通り過ぎていく。その歩いていく先に、彼らを迎え入れる生活がちゃんと待ち構えてくれていて、彼らはそこに着くためだけにここにいるのだろう。水橋は思う。朝のすすきのは彼らにとって、ただ、急いで通り過ぎるべき空白地帯でしかないのかもしれない、と。自らを取り囲む無人のビルから目を反らし、頑なに目を伏せつづけたままで、人々は一刻も早く自分の人生に紛れ込もうと必死なように見えた。その歩みが、目の前で、終わることも繰り返されることもなく、ゆっくりゆっくり広がっていく。
 「とうきび食べるよね?」
 キッチンの方から野坂が聞いた。水橋が返事をする前に、もう、ついたてのように張り出した壁の向こうを野坂が横切っていく。
 「とうきび?」
 水橋は訊いたが、返事はしばらく返ってこなかった。ごそごそという音が聞こえる。おそらくこちらに背中を向けて、冷蔵庫の中を探しているのだろう。水橋はそう想像した。
 「とうもろこしのこと。実家からたくさん送ってきてね。親戚のおじさんがくれたんだって。ゆでるから、食べて」
 声が聞こえて、また、壁の向こうを野坂が横切っていく。その姿が一瞬見えて、見えなくなっている。部屋の片隅で、ガスレンジに火をつける音が聞こえる。
 「そういえば、あっちではナンバとか呼んでなかったっけ?」
 「うん。僕は呼ばなかったけど」
 「大阪の難波とまぎらわしいから?」
 かすかな笑い声。水橋は、自分の目の前にあって見えるものを、一つ一ついとおしいと思っていた。覆いを取り払われたコタツの角は、円を四分の一にしたような形をしていた。カーテン越しに差し込む朝の光を、四方八方にやわらかく散らしている。
 歩いていた。緋の絨毯が敷かれた薄暗い廊下を渡って、左右対称に広がった階段の奥の方を昇っていった。階段を上がりきったところには絵がかかっていて、そこには開拓が始まったばかりの頃の、測量の様子が描かれていた。どこの地方を開拓した時のものだっただろうか。男の数人はスーツを着て山高帽をかぶり、真っ直ぐに立っている。残りの男は藍の着物を着て猿股をはき、身をかがめたり跪いたりしながら、棒やら何やらを縦にしたり横にしたりしていた。その曲がった背中が、妙に立体的に水橋の目によみがえる。
 彼らのいる道は細かった。その両脇や行き先は、無造作に生えて入り組みながら迫ってくる木々と、縦にばかり細長く伸びて荒みながら繁茂する草の群れとに挟まれて、今にも埋め直されてしまいそうだった。その道の向こうには泥炭地が広がっている。ところどころで、濡れた土がため池のように顔を覗かせていて、あとは、細かく生えそろった緑の雑草が大地を覆い尽くしていた。
 絵から目を離して、水橋は廊下の端に大きく開いた窓から、外の木々と通りを眺めた。北三条通は太く、まっすぐにつづいていた。両側に背の高いビルが雑多に立ち並び、しかし、通りはそれを寄せつけないほどに逞しく伸びている。水橋にはそれが、どこかバランスの悪い景色のように思えた。
 この通りを作るために、一体どれだけの人が血と汗を流したのだろう? 水橋はそう考えていた。不恰好なまでに力強い通りの上を、自動車が夢のように何台も走っている。歩道の上では、カラフルな服を着た人たちがのんびりと歩き、そのまま次第に見えなくなっていく。どこまでも伸びる道の先は、平らだった。水橋は不意に、“地の果て”という言葉を思い出した。
 皿の上にはトーストと、ゆでたばかりの「とうきび」が置かれた。野坂はうれしそうな目をして水橋の表情を伺っていたが、突然思い立ったかのようにまた隣の部屋にむかい、コップに牛乳をなみなみ注いで戻ってきた。「北海道産」と称される食べ物は数多くあるし、水橋はこれまでにも、それらを数え切れないほど口にしてきた。しかし、北海道で取れ、そのまま北海道で消費される食べ物というのは、内地の人間である彼にとって、まったく未知の部分があるように思えた。甘く結びついた恋人たちの秘密の中に、自分の身一つで分け入っていく。そんな気分で、彼はゆでたての「とうきび」にかぶりついた。
 歩いていた。声の高い男に連れられて、紅い照明に照らされた螺旋階段を昇っていった。照明は平坦で、部屋の細部や人の表情は見えなかった。見えているけれど、つかみにくく、実感を伴って伝わってはこない。周囲がうるさくてよく聞こえなかったが、どうやら満室らしい。カウンターから一旦戻されて、病院の待合室みたいに並べられたソファーの上で、しばらく待たされた。
 異様に陽気な声で案内が入った。再びカウンターに向かうと男が待っていた。そして、彼が先に立って歩く形で、カーテンで仕切られた狭いボックス席へと水橋を連れて行く。カーテンを開けて、水橋は座らされた。案内役の男が注文を取って、消える。男はすぐに戻ってきて、グラスに入ったコーラを机の上にポン、と置いた。男は今度こそいなくなった。狭苦しい部屋の片側では、閉められたカーテンが真っ直ぐ下に降りている。
 「あ、……。あなたもしかして、コージくんじゃない? ほら、三重県の伊賀で、夏になると蛙ばかり捕っていた」
 三人目に入ってきた女は、水橋の顔を一目見て眉を曇らせた。おしぼりとローションが入ったカゴを足元に置いてから、もう一度、水橋の顔をまじまじと見る。次の瞬間には、女は笑っていた。その時の笑顔を、水橋は二日たった今でも忘れることができない。
 「どう? おいしい?」
 野坂は、コタツの向こうから水橋の顔を覗きこんだ。水橋は、自分の歯形の残るとうきびに目を戻し、深くうなづいた。野坂は、弾けるような笑顔で、笑う。
 「そうだと思った。へえ、なっつかしいなあ。北海道に来ているんだ。旅行なの?」
 そう言いながら、おしぼりを取り出して、萎えてきていた水橋の性器をゆっくりと拭いていく(水橋は、この時すでに、ズボンと下着を完全にずり下ろしていた。一人目の女が、そうさせたのだ)。女は話しながら、ずっとふにゃふにゃと笑っていて、しかしその手の動きは、驚くほどに丁寧だった。その指先は、ほんの一瞬でも気を緩みを見せることはなく、自分の仕事を黙々と着実に進めていく。きれいな掌だった。

2005年8月3日水曜日

「Ishkar」 scene 6


 自転車でどれだけ走り抜けても、地面まで降りた夕焼けは街のあらゆる空間を塞いでいる。昼間には四十度を超えた暑さもどうにかやわらぎ、どこかから細く、風が吹いていた。けれど、息苦しくてたまらない。大学からの帰り道、水橋は隙間のない夕空を見上げながら、どこか遠くで窒息しつつある自分を想像した。
 学生マンションに着くと、まず郵便受けを調べる。これは、特に意味もない日課だった。格子みたいに上下左右に隣接して並ぶ、いくつもの四角い銀色の扉から、自分の名前の振られている一つを選び、手を伸ばす。扉がわずかに歪んでいるのを無理矢理力で引き開けて、その中の薄暗がりに無造作に手を突っ込む。そして、ひんやりとした平らな底をこちらへと、撫でる。
 「ああ、今日も何も入ってへんな」
 時には、声に出してそうつぶやくこともあった。特に待っている手紙があるわけでもないのだから、その言葉には何の感慨もこもらない。そして、そこに何の感慨もこもらないことが、却って水橋を途方に暮れさせた。一体、僕は何を待っているのだろう。何を待つためにここにいて、何のために気のない行為を重ねているのだろう。郵便受けの前の虚しい身体を引き下げて、彼はそれから階段を昇り、湿気のこもった自分の部屋へと帰っていくのだった。
 その日も、彼はいつものように郵便受けの扉を無理矢理引き開けた。そして、目の前の薄暗がりの中に、何の注意も払わないまま右手を突っ込んだ。その時、何かが彼の指の先に触れた。ひんやりとしたステンレス製の底ではない、ふくらみと反発とがそこにあったのだ。彼は少し驚いて、自分の指が押さえているものを見た。見ながら、手を、こちら側に引きずってくる。そこには、一通の封筒があった。
 ボロい封筒だ。何よりもまず、そのくたびれ具合が水橋の気を惹いた。形態としてはよくある茶封筒なのだが、縁の方は擦り切れて紙がほぐれていて、四隅となると色も落ちて白っぽくなっていた。折りジワも何本か入っていて、砂埃なのか手垢なのか、斜めに走るその直線はうっすら汚れを乗せている。封筒の口は山折りと谷折りに折れ曲がり、糊付けされていたであろう部分の一端が、かすかに浮かび上がりかけていた。
 水橋は、その封筒を手にとってじっくり眺めていた。封筒は軽く、何が入っているかわからなかった。宛名は北海道石狩市の、全く知らない人の名前になっていて、住所の付近にさらにいくつかの住所が、赤いボールペンやら鉛筆やらで走り書きされてある。黒のボールペンで書かれた元の住所は、それが個性的な字であったとはいえ、割合簡単に読むことができた。しかし、走り書きされた住所の方は汚い字だったので、何と書かれてあるのかよくわからなかった。そして、それら肉筆に混じって、名前の周りに散らすように、――と言うかむしろ、散らすと見せかけて巧妙にその端を名前に被せていくように、――三つ、四つと、赤いスタンプがくっきり押されてある。

    あて所に尋ね
    あたりません

 不恰好に改行され、四角い枠の中に押し込められている、文字。それを見て、水橋は言いようのない胸騒ぎを覚えた。「あて所」という言葉がぎこちなかった。「尋ね/あたりません」という二行の間がどこか遠かった。読もうとしてもいまいち滑らかに発音できなくて、喉と声とがもたもたしている間に、周囲の世界はそんな自分を置いていつものように進んでいく。そこに開ける一瞬の遅れは、どんなに一瞬でももはや追いつきようのない距離となって広がり、その、あるはずもない時間の空白の中に、水橋は一つのぎこちなさとして立ち尽くしていた。
 きっと、郵便配達の人もそうだったに違いない。水橋はそんなことを考えた。どこにいるのかわからない人の住所を尋ね、いつかどこかでその人に尋ねあたるだろうと尋ねつづけ、そうして、彼は宛てもなく行ったり来たりしつづけたに違いない。行き先のない場所に放り出された彼の迷いそのもののように、道は何回も曲がりくねり、時には重なり、交差し、すれ違って、それでもいつまでも広野の上にあったのだろう。道がどこかに抜け出て広野が終わる、そんな場所を見つけることもできないまま、先の見えない塞がる歩みが伸びていく。「あて所に尋ね/あたりません」。赤く四角いスタンプの文字の中に、彼の歩みが、そこに費やされた彼の時間が、そっくりそのまま込められている気がした。
 一体、どれくらいの数の人が、これまでにこの封筒と関わってきたのか。自分の部屋で座布団に腰を下ろして、水橋はなおも考えつづけていた。目の前の卓上には、さっきの封筒が置かれてある。宛先は「北野菜穂」。誰にしたって全く知らない人であることには変わりがない。消印の日付は、二〇〇四年八月三十日になっていた。すると、もう一年近く前に投函された封筒になるのか。そう思いながら、水橋は封筒を裏返す。差出人の住所は、水橋が座っている部屋になっていた。そして、その左には、「水橋孝司」……ではなく別の名前が、おそらくその人本人の手で書かれてあった。「増田考志」
 水橋がこの学生マンションに引っ越してきたのは、今年の三月だった。越してきたばかりの頃には、「増田考志」宛の手紙がけっこう頻繁に、「水橋孝司」の郵便受けに舞い込んだ。管理人の話によると、増田は水橋の前にその部屋に住んでいた学生で、一月下旬に増田が退室してから水橋が入居するまでの間にも、その部屋に増田宛の手紙が届くことがよくあったらしい。
 「せっかく転送してもですねえ」水橋が増田宛の手紙を渡しに行った時、管理人は少し怒った口調で愚痴をこぼした。「どこに行かはったのかわからへんのです。新しい転居先もだめ、実家として聞いていた住所もだめでねえ。どちらも宛先不明で返ってくるんですわ」
 そう言えば、増田への手紙が届くことはよくあったけど、増田からの手紙は初めてだな。ふとそう思い、水橋は少し笑いそうになった。なに勘違いしてんねん。そう、自分にツッコミを入れる。目の前にある封筒は、たしかに増田からのものだった。しかし、決して、水橋宛てのものではない。それはそもそも「北野菜穂」に宛てられていて、しかし、「北野菜穂」はどこに行ったのかわからなくなっていた。だから、封筒は返ってきたのだ。返ってきたのだが、だからといってそれは、決して、増田へ宛てられたものでもない。
 自分の出した封筒が、受け取る人もないままに、一年かかってそのままの姿で自分の許に返ってきた。それを見つけたとしたら、増田はどのように思っただろうか。水橋は、その時の増田の気持ちを想像した。きっと彼は、まず、ないはずのものがあることに驚くだろう。目の前にそれがあるということが、しばらく信じられないに違いない。そして、その封筒が現にそこにあるということを無理無理認めた後で、あると思っていたものが既になくなっていたということに気づき、急に支えを失ったような気分になるだろう。
 水橋は、自分で思い浮かべた増田の姿に同情した。その同情は水橋にとって、ちょうど切ないドラマを見ている時のように、心地よく自己陶酔に満ちたものだった。しかし次の瞬間、郵便受けの前で封筒を持っている増田が自分であることに気づいて彼は戦慄した。
 ――カタカタ。カタカタ。カタカタ。カタカタ。カタ、……カタカタ。カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタ……
 封筒の中からは、いつしか音が鳴っていた。窓の外は、すでに夜になっていた。水橋は自分がどれくらいの時間そこに座っているのか、もはや思い起こすこともできなくなっていた。ただ、封筒の中身が震える音だけが、断続的に、いつ終わるともなく鳴りつづけている。
 その音はきっと、ずっと鳴っていたのだろう。僕が気づく前から。いや、郵便受けから取り出す前から。いや、もしかしたら、封筒が郵便受けに届く前から。カタカタ震えるこの音は、僕の部屋で、あらゆる郵便受けで、そして、世界のそこら中で、ずっと鳴りつづけていたのかもしれない。けれど、汚れとか折り目とか余計なことばかりに気を取られて、今の今まで気がつかなかった。水橋はそう思って、もう一度、目の前にある封筒を凝視する。中に何が入っているのかはわからない。わからないけれど、それはもはや何かを包み届けるものではなかった。そうではなくて、それはただ、そこにある“物”として、目の前の卓上に置かれてある。
 これをどうにかしなければならない。水橋は、そのことを強く思った。どういう理由であれ、僕のところに届いてしまった以上、僕はこれをどうにかしなければならない。水橋はそう強く思いながら、コンビニに行って弁当と野菜ジュースとを買い、部屋に戻ってきて座布団の上でもそれらをもそもそと食べ、食べ終わると、ゴミを捨て、シャワーを浴びて、一人分の布団を敷いてその中に潜り込んだ。電気を消す。すると部屋の中は真っ暗になる。その時どこかで、火が焚かれているのが窓越しに見えた。
 水橋が二度目の北海道旅行を決心したのは、その晩のことだった。

2005年8月1日月曜日

「Ishkar」 scene 5


    *   *   *   *    

差出人:   栄安津子
送信日時:  二〇〇四年八月二十八日 二十三時五十七分四十二秒
宛先:    増田考志
件名:    Re:お久しぶりです。

>  栄さん、お久しぶりです。増田考志です。暑い日が続きますが、お元気で
> お過ごしでしょうか。
>  私はいま、人生で初めて、北海道の大地の上にいます。今日の夕方ごろに
> 新千歳空港に着き、そこからは空港バスで、ここ、札幌まで来ました。この
> メールは、すすきのの外れにあるインターネット喫茶から打ってます。ホテ
> ルをうろつき出て、人に道を訊き訊きこの店まで歩いてきました。すすきの
> と聞いて、決して変な想像をしないように(爆)。
>  私が北海道に並々ならぬ愛着を持っていることは、栄さんもご存知でしょ
> う。あれほどゼミでも発表しましたしね(笑)。けれど、私が初めて北海道
> に来てみて感じたのは、憧れの地に対する感激ではありませんでした。
>  かといって、無論幻滅したわけではありません(笑)。そうではなくて、
> 何と言ったらいいのだろう、私は、言葉を失ってしまったのです。ここ北海
> 道は、あまりにもすき間が大きすぎるのです。そして、ちょうどそのすき間
> にはまり込んでしまったかのように、というか、そのすき間の中で佇んでい
> る自分にはっと気づいてしまったかのように、言葉が寄りかかる対象を見失

    *   *   *   *    

 「はい。野坂夕香です」
 「あ、……もしもし、水橋孝司です」
 「えーっと……。どちらの水橋さんですか?」
 「え? ああ、そうか。どう言ったらいいんだろう。昨日の水橋です」
 「昨日の水橋さん? ……あ! もしかしてコージくん?」
 「うん、水橋孝司です」
 「そうだったね。ごめん、忘れてた。なはは」
 「あはははは。忘れてたって何やねん」
 「いやー、ほんとごめん。で、今どこにいるの?」
 「北海道庁の傍の、公園」
 「ああ、あの木がいっぱい生えているところでしょ。赤レンガはもう見た後?」
 「いや、まだこれから。公園を周ってから見に行くつもり」
 「そうかそうか。まだ札幌にいるんだね。で、今晩はどうするの?」
 「ああ、そうだ。そのことで電話したんだった。実はもう、ホテルをチェックアウトしてしまってて、今晩泊まるところはこれから探さなきゃいけないんだけど。……よかったら、泊めてくれる?」
 「今晩かあ……。うん、いいよ。ちょうど仕事もないし、大丈夫」
 「ほんとに?」
 「うん。ほんとに。で、待ち合わせ場所とかどうする?」
 「いや、それはさすがに野坂さんの都合に合わせる」
 「そっか。うーん、そういうこと言われると困るんだけどな。……。じゃ、路面電車のすすきの駅ってわかる?」
 「決めさせてごめん。うん、わかるよ」
 「そこに夜十時でいい?」
 「全然大丈夫。ばっちりやわ」
 「オッケー。じゃあ、今晩ね。……ん? 何?」
 「何?」
 「何か聞こえない?」
 「何が?」
 「何か、カタカタ言ってる。小さい音で、鳴ったり鳴らなかったり。いや、鳴ってないんじゃなくて、こちらに聞こえてないだけかな」
 「ああ、これは……」
 「わかった! ミシンでしょ。あの、足で踏んで輪っかがグルグルグルグル回るやつ」
 「足踏み式ミシンな。でも、ごめん、それじゃない。実は今、封筒を持っていて」
 「ああ! その中にミシンが入ってるんだね」
 「いや、入ってないって。あ、でも、もしかしたら入っているかもしれないけど。まあいいや。また今晩、そのことも話そう」
 「うん。楽しみにしてる」
 「急なことでごめんね」
 「いいえいいえ。じゃあ、今晩十時に、……どこだっけ?」
 「路面電車のすすきの駅」
 「そうだね。ごめん、また忘れてた。じゃあね、また」
 「うん。また」

 ――野坂さん。いま、どこにいるの?
 ――わからない。暗くて、何も見えなくて、どこだかわからないところにいる。コージくんは?
 ――僕もわからない。僕のところも同じだよ。自分さえ見えないくらい、暗い。ただ、……何だろう。音が聞こえる。風が吹いていて、草が鳴っていて。で、その向こうから、クツニサ、クトンクトン。クツニサ、クトンクトン。……って。
 ――それ、流れていく水の音なのかな。それとも、誰かが杭を打ってるのかな。よくわからないね。でも、聞こえるよ、ここでも。その音が、ここでも聞こえてる。……ねえ、あなたは今、どこにいるの? どんなに遠く離れていても、わたしもたぶん、そこにいるんだと思う。
 ――クツニサ、クトンクトン。クツニサ、クトンクトン。

    *   *   *   *    

差出人:   栄安津子
送信日時:  二〇〇四年八月二十九日 四時二十七分九秒
宛先:    増田考志
件名:    Re:お久しぶりです。
 増田くん? お久しぶり。メールありがとう。それから、さっきは変な返信をしてしまってごめんね。
 北海道、いいね。人生初だったんだ? きっと、今頃やっと感激してるんじゃないかな。おいしいものもいっぱい食べてる? また、みやげ話とか聞かせてね。
 そうそう。京都はまだ暑いです。熊本にはまだ帰ってない。学会とかで先生のお手伝いをしたり、色々忙しいからね。それに、院試ももうすぐだから。院試が終わったらまた、帰るよ。
 増田くんは就職先が決まってていいなあ~。じゃあね、また。熊本から帰ってきたら、その時飲みましょう。こちらこそ、久しぶりに喋れるの、楽しみにしています。

    *   *   *   *

「Ishkar」 scene 4


 朝だった。ベッドの上のうすい掛け布団はしわしわで、よじれてまとまってへその緒みたいだった。それを抱きかかえた姿勢で、水橋は目覚めていた。昨日はよく眠れたのだろうか。寝相の悪さはいつも通りだが、目覚めの気分がいつもとかなり違っている。まったく知らない国の、どこだかわからない部屋の中でいる気分だった。眠りからも昨日からも切り取られたように、切り取られてまったく違う朝に移送されてきたように、自分がそこにいた。
 目に映る天井は白くて、新鮮なくらいに四角かった。水橋はそれを眺めていた。身体の中がいやにしずかで、疲れもやる気も、まっさらになくなっている。やはり、昨日はよく眠れたのだろう。部屋の中の床や壁、机やスタンドライトなどの音が聞こえた。かすかな軋みを立てながら、意識がほこりのように落ちてくる。
 水橋はベッドから立ち上がった。両足がスリッパの上に乗り、スリッパを通してホテルの床に触れた時、水橋は少し驚いた。午前九時前だった。カーテンの向こうは、もう、白々しいほどに明るかった。
 朝のすすきのには、明かりの消えたビルばかりが立ち並んでいた。中に誰もいないビルは、物寂しいと言うよりも、むしろあっけらかんとしていて、ひんやりとした朝の空気の中で、抜け殻みたいな輪郭を見せていた。水橋には、そのしずかさが少し悲しく、少し懐かしかった。まるで、祭りの次の朝のようなのだ。前夜の混沌とした賑わいも、艶やかに渦巻く暗い情動も、それを掻き立てる裸電球のゆらゆらした光も、隙間だらけの粗末な夜店の彩りも、すべてが嘘だったかのようになくなって、ただ通行するためだけの道路が広々と開けている。その時の気分を思い出した。
 一体どれくらい祭りに行っていないのだろう。小さい頃、水橋は毎年欠かさず、地元の神社の夏祭りに出かけていた。何百もの石灯籠に挟まれた真っ暗な石段を、友達と二人で駆け上っていったのを彼は覚えている。鎮守の森は深く、ずっと奥まで沈黙していて、けれど石段の上からはもう、肌が火照るようなお囃子の音が聞こえてきていた。不安なのか期待なのかわからないドキドキを抱えたまま、水橋と友達は懸命に走っていた。
 二人は、手をつないでいた。宵闇の中に浮かぶ、重なった二つの小さな手が、水橋には今現在のことのように見えている。しかし、その友達の顔が、どうしても思い出せなかった。無理矢理思い出そうとすると、しなやかに伸び縮みする幼い足首が見え、白い浴衣の腰で揺れるピンクの小さな帯が見えて、不意に、狐のお面をかぶった顔がこちらを振り返った。
 水橋は、危うく声を出すところだった。彼は、朝のすすきのを歩いていた。歩道の上を、OL風の女性が早足で歩き去っていく。紺色のスーツを着てメガネをかけた、裕福そうな中年サラリーマン二人組――片方は太っていて、白髪頭のてっぺんを隆々と禿げ上がらせていた。もう片方は痩せていて、朝なのにもう上着を脱いで、ワイシャツだけになっている――とすれ違った。自転車に乗った、学生と思しき軽装の若者が、水橋を後ろから追い抜いていく。通りの両脇に立ち並ぶビルは、それらの人々に干渉することも干渉されることもないままに、ただ、そこにありつづけていた。朝だった。

 昨晩水橋は、夜のすすきのを通り抜けていた。泊まっていたホテルがすすきのの外れで、そこから目当てのラーメン街まで行くためには、すすきののど真ん中を横断しなければならなかった。もちろん、水橋もそこ――夜のすすきの――がどのような場所か、知らないわけではなかった。しかし、その手の店は、大体が裏通りなどに密集しているもので、避けて通ろうと思えばいくらでも避けて通れる。そう思っていた。だからこそ彼は、薄汚れた財布だけを持って、部屋着同然のかっこうでホテルを出たのだ。
 ホテルから出て通りを左折し、次の角を右折してしばらく歩くと、通りの脇に一棟、巨大なビルが見えてきた。それはまるで、真っ暗な夜空にそそり立つかのような、太くて高い塊だった。その屋上には、鮮やかな紫の看板が乗っている。
 「ランジェリーパブ 大将軍」。
 その文字を見た瞬間、水橋には、目の前のビルが急激にその重さを増したように思えた。涼しげな夜空に紫の光を打ち上げながらも、そのビルは動かしがたい暗さを抱いて、そこに居座っているようだった。一つ一つの窓の中が、不自然に暗い。そして、その暗さがぬめぬめとしたテカりとなって、ビルの外郭を覆うドギツイ照明とともに夜空に放たれる。
 しかし、夜空はどこまでも涼しげな顔をして、その光をまるで他人事のように水平に受け流していた。夜空を染めて燃え上がるようでありながら、照明の光がどこか淡く感じられたのは、そのせいだったのかもしれない。
 とにかく、その光景は京都では決して見られないものだった。四条河原町もたしかに有名な風俗街なのだが、京都の店は、せいぜい二階建てくらいの高さしか持っていなくて、それも大体が、入り組んだ路地にせせこましく立ち並んでいる。その手の店が、幅の広い通りの脇に一棟で立ち、公然とピンクの灯りを夜空に放っているなんて、どうして水橋に想像できただろう。
 通りに沿って道を進むうちに、風俗ビルは次第にその数を増していった。通りの両脇で、一つ一つ巨大な輪郭を見せつけながら、交じり合うその光で街全体を染め上げていた。歩道の所々では、スーツを着た若い男性がたむろしていて(皆、二十歳になるかならないかぐらいに見えた。高校一、二年生くらいの人もいた)、道行く客には興味がないかのように仲間うちで談笑したり、その笑顔のままで急に客に話しかけに行ったりしていた。薄暗いどころか、人々の顔はむしろ均一に照らし出されていて、かえって見えやすい気がした。人工の光によってよく見えるようになった表情を貼り付けて、あちらに行ったりこちらに行ったりする。その人ごみの中を、水橋はじっと黙って潜り抜けていく。
 大きな看板が、車道にもはみ出すくらいの勢いで道に置かれていた。ほぼ等間隔に現れてくるその板の上には、それぞれにまぶしい写真が貼ってあり、すぐには数えられないほどの女性の姿が――ある者は裸で、長い黒髪を少し濡らしていて、ある者はセーラー服を着て、ラメ入りのメイクをしていた――そこに写されていた。しかし、ビルの方を振り仰いでみても、暗くぬめぬめとした窓が規則的に並んでいるばかりで、一つ一つの窓の向こうに本当に彼女たちがいるのか、水橋には想像することさえできなかった。
 一体どれくらいの人が、ビルの中にいるのだろう。一体どれくらいの人生が、ビルの中に囲まれてあるのだろう。その数を推測して、水橋は身体の中がぞわぞわするのを感じたが、一方、ビルの内部にいる人々の実際の姿となると、どんなに頑張っても思い浮かべることはできなかった。どれほど具体的に想像しようとしてみても、それはまるで、夜、舟の上から湖の底を覗き込むようなものだった。水橋には何も見えず、逆に、深くて見えない水の底から見つめ返されているような気さえして、水橋はただ、言いようのない不安を感じていた。
 若いスーツの何人かが、水橋に声をかけてきた。看板に写る女の子たちの顔、あるいは全身は、不自然なくらいに加工されてキラキラと輝いている。

「Ishkar」 scene 3


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差出人:   増田考志
送信日時:  二〇〇四年八月二十七日 二十二時十六分三十二秒
宛先:    栄安津子
件名:    お久しぶりです。
 栄さん、お久しぶりです。増田考志です。暑い日が続きますが、お元気でお過ごしでしょうか。
 私はいま、人生で初めて、北海道の大地の上にいます。今日の夕方ごろに新千歳空港に着き、そこからは空港バスで、ここ、札幌まで来ました。このメールは、すすきのの外れにあるインターネット喫茶から打ってます。ホテルをうろつき出て、人に道を訊き訊きこの店まで歩いてきました。すすきのと聞いて、決して変な想像をしないように(爆)。
 私が北海道に並々ならぬ愛着を持っていることは、栄さんもご存知でしょう。あれほど、ゼミでも発表しましたしね(笑)。けれど、私が初めて北海道に来てみて感じたのは、憧れの地に対する感激ではありませんでした。
 かといって、無論、幻滅したわけではありません(笑)。そうではなくて、何と言ったらいいのだろう、私は、言葉を失ってしまったのです。ここ北海道は、あまりにもすき間が大きすぎるのです。そして、ちょうどそのすき間にはまり込んでしまったかのように、というか、そのすき間の中で佇んでいる自分にはっと気づいてしまったかのように、言葉が寄りかかる対象を見失って、途方に暮れてしまうのです。
 すき間、と言っても、よくわからないと思います。と言っても、私が説明しても、余計にわかりにくくなるだけかもしれませんが(苦笑)。たとえば、建物と建物との間には、不思議な隔たりがあって、そこに口を開けた空間は、埋められることがありません。たしかに、札幌市のビル群は巨大です。けれど、それらは街並みとして統一された景観を作っていると言うよりも、むしろそれぞれに大味な輪郭を持ち、空の下にごろり、ごろりと転がっている感じに近いです。
 民家についても同じことが言えます。家が庭を持っていると言うよりは、あてどない風土の上にかろうじて家が乗っている、と言った感じなのです(恵庭市では、その広すぎる庭にイトススキがさわさわと生え、しずかな風に揺られながら、今にも、夕焼けの中にかき消えてしまいそうでした)。ただし、これは私が夏に訪れたからかもしれません。冬、雪のある状態で見ると、また印象は大きく変わるでしょう。
 もちろん、すき間があったのは建物だけではありません。空と木々との間にもまた、とても大きな隔たりがある気がしました。北海道の空は、私の予想とは違い、決して高くはありませんでした(今が八月の終わりだからかもしれませんが)。むしろ、どう言ったらいいのか、高さがない感じがしました。色も淡く、空虚で、寒々としていて、その空の下で、いやに白い木々が骨のように生えているのです。
 もちろん、木々の一本一本は太いですし、本州のそれよりもずっと高くまで届いているのでしょう。けれど、それらの木々は、まるで押さえつけられてでもいるように、ある一定の高さで生長を止めているのです。空があまりに拡散してしまっているせいでしょうか。その、あまりに広すぎる平坦さに、木々は我知らず屈服してしまうのでしょうか。空を覆う夕焼けは、「夕焼け」と言っても何も焼き尽さないように見えました。かえって、そのわびしささえかき消えてしまうほどのわびしさによって、木々や下草を一面に満たしているようでした。あらゆるものが、焼き尽される時を永遠に待っているようでした。
 そして、ここを歩く人々の姿にもまた、どこかしらすき間があるのではないかと私は感じました。けれど、こういうことはそもそも、旅行客が軽々しく言うべきではないでしょう(そのことは、栄さんも同意してくれるはずです)。それに、私は実は、このすき間が単に寒々しいだけのものだとはどうも思えなくて、そこに何か、どうしようもなく私を引き寄せていくものがあると感じているのですが、今の私には、そこにあるものをうまく言い表す自信がまだ、ないのです。ですから、今回は、中途半端ですがこの辺で止めておくことにします。
 毎度ながら、長々と失礼しました。しかも、例によって、自分のことばっかりになってしまった(苦笑)。このことの仕返しに(?)、また、栄さんのふるさとの、熊本の話とかを聞かせてもらえたら、と思います。
 京都に戻ったら、ぜひぜひお酒を飲みましょう。思えば、ここ一ヶ月ほど一緒に飲んでませんしね。それでは。おいしいワインとかをきっと買っていきますので、楽しみにしてて下さい(笑)。

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