いつかは部屋を出なければならない。 みかんなんて剥いていても仕方がないぜ。 いつかは部屋を出なければならない。 左前の白い押し入れを蹴破ろうか、「卒」! ドアを開けても空には窓がある。 壁のない窓だ、むこうで炎が燃えている。 みんなが口々にそう言うのだ。 けれど実際、空に煙を見た者はいない。 ただの一筋も。 ちらりちらりと隠されて、 ピカピカする火の切れ端だけ、 笑いとともに語り継がれていく。 結局、ここも部屋なのだ。 窓のむこうまでまた部屋にして、 僕らは楽しそうにみかんを剥いている。 見もしないテレビがついたままで、 死に損なった弟も存外元気だ。 どこからかDVDを借りてくる。 抱える膝ばかりがあり余るから、 昼のフリマで売りに出されている。 ああ! だから出なければならない。 もっともっと、 いつかは部屋を出なければならない。 銭湯にでも行くみたいにして、 三六〇円と、少しの五円玉だけを持ち、 ごくごく普通に一つの窓から出なければならない。 あるいは、「卒」! 押し入れを蹴破って花を見にいく。 何も目指さず、何も振り返らず、 ただ小銭の音だけが空に響く時、 壁と窓とは崩れ落ちるだろう。 あなたの膝に、刻まれた傷の跡が、 初めての痛みにやさしく満たされるだろう。 その光景をぼんやり夢想しながら、 僕はまた、新しいみかんを剥く。 (あなたはこの詩を忘れてくれ。) (あなたはこの詩を忘れてくれ。) 首をなくした弟が、 さっきから同じ言葉を呟いている。 「春過ぎて、夏来たるらし……」 「春過ぎて、夏来たるらし……」 もう、寝る時間なのだ。 おやすみ (二〇〇四年五月十二、二十二、二十三、二十四日) |