2003年12月9日火曜日

即興詩 RAIN








れいん。

れいん。

ふる ひさめ、



れいん。

れいん。

ふる ひさめ、



                「砂まみれの六月でした。
                 白い貝殻の打ち寄せる砂浜で、
                 わたしは両足を砂にとられて
                 横たわっていました。ひとり、
                 海の向こうから打ち寄せてくる、
                 小さな死の声に耳を澄ましながら、
                (一行欠落。文字が滲んで読めない)
                 砂まみれの六月でした。
                 曇り空ばかりで、でも、わたしは、
                 濡れていませんでした。濡れて
                 いませんでした。重たくも遠い空から
                 乾いた水滴が、はね



れいん。

れいん。

ふる ひさめ、



                 「せんせい、

                  プールでだれかが、

                  およいでいますよ。

                  おさかなみたいに、

                  くろいだれかが、

                  せんせい、

                  そらからプールにとびこんで、

                  せんせい、せんせい、

                  たいふうは行ってしまったんでしょ?

                  でも、プールサイドに、ほら、

                  あんなにあんなにきいろい旗が」



          わたしの母は部屋でくしゃみばかりしている
          「花粉症でこの季節は大変やわ」と言うが
          今日はもう六月で 外では雨が降っているのだ
          花粉が飛ぶはずもないこんな日に 母は
          部屋でくしゃみばかりしている 
          わたしはその声を聞きながら ぼんやり
          あなたからの手紙を整理している
          17歳だったわたしたちの ばかげたやりとりを
          青くきざみこまれた手紙の色は あせて

          文字は どこか水面に浮かんでいるみたいだ
          
          あなたと別れる少し前に飼い始めたコバタンは
          今年の四月に死んでしまった たった一回だけ
          あなたになでられたあの時に 細めていた目を
          静かにとじて
                   ねえ あなたが好きだった
          真っ白な羽が 今でも この部屋に舞っている
          ような 気がするよ わたしは    そして
          わたしの母は

          ここからは遠く 自分の部屋でくしゃみばかり
          さっきからし続けている

          外は雨だ



「1999年6月3日、竹林の中で白骨が発見された。
その日は先日来の豪雨で斜面の土が流され、
その下から、女性のものと見られる死体が発見された。
(女性の死体のそばには、鍵のないキーホルダーが発見され、)
遺留品から、その遺体がA市在住の××××さんのものであることが判明した。
××××さんは、東京で○○○○と言う名で写真のモデルとして働いていたが、
1997年4月あたりから失踪を繰り返し、1999年に入ってからというもの、
行方が全くわからない状態になっていた。(知人の話では、××××さんは
最後の失踪の前夜、「雨に会いに行く」と話していたらしい。)検死の結果、
特に外傷が見つからなかったことから、死因は餓死と見られている。

(不思議なことに、遺体の骨格のうち、両足の親指がどうしても見つからなかった
という。遺体の発見者は、その時の状況を、まるで骨が軽く飛んでいるようだった
と証言しているが、この証言が何を指すのか、一切の真偽は不明である。)

その後の家宅捜索などにおいても、遺書の類は発見されなかったため、
この失踪事件は原因不明のままで捜査が打ち切られ、今に至っている。

(ただし、家宅捜索の際、遺書ではないものの、何も書かれていない手紙らしき
ものが見つかった。その手紙はずっと家の中に置かれていたはずなのだが、なぜか、
まるで文字のように点々と水滴が落ちていて、

それを発見した捜査員は、その日の帰路で、雨が空へと舞い上がっていく景色を、
見たと言う。しかし、一切の真偽は不明である。)

(思えば、遺体が発見されたその時も、六月にしてはめずらしいほどの冷たい雨が
降っていて、遺体を隠すビニールシート、そして捜査員が来た雨合羽の青色へと、
雨粒が凍えるような寒さで落ちてきていた。その時竹林を包み込んでいた雨音を、
わたしは、今   どうしても思い出すことができない。)」





                                   れいん。

                                   れいん。

                                ふる ひさめ、                   


                                   れいん。

                                   れいん。

                                ふる ひさめ、