2006年1月15日日曜日

詩集 『寄せる波、世界へ、』 後半


前半http://awono-katei.blogspot.com/2006/01/blog-post_15.htmlより




   二〇〇二年 クリスマスに祈りを

 (うみほたるさんに、マックスヴェーバーに、「LOVELESS」に、『戦場のメリークリスマス』に)


ドイツの宇宙飛行士の、
無線のこゑ。
世界(ゆにばあす)の闇 (不思議ナ、文字ダ。〝門〟ノ中ニ、〝音〟)
と、青き水のほし(ああす)との間を、
響いている。
それは誰にも拾われず、
いつまでも、
そこで、
語りかけつづけている、
語りだしつづけている、
無線のこゑ。
無いものは、
孤独なうたを聴くための、
唇だった。

今年もむなしくやってくる、
水のふゆ
と、
暴力的にひろがっていく、
世界の闇の草原 (〝門〟ノ中ニ、〝音〟!)
そのまんなかで、誰にも気づかれないまま、
宇宙の〝う〟 が、
ふるえている。
それを正しく発音できないから、
マックス・ヴェーバー(二十世紀初頭のドイツの社会学者)が、
大通りでひとり、
天を仰いでいる。

 ゆにばあす
 と
 ああす
 の
 間
 あい
 、だ

ドイツの宇宙飛行士の、
無線のこゑ。
〝響いている。〟
その、果てもない語りかけ、あるいは語りだしの中で、
いま
母が、
生まれようとしている。





          (二〇〇二年十二月十六日)

          メリークリスマス、
          メリークリスマス、ミスターローレンス。





   LOVE SONG



世界の果てで、
空は幾何学的にヒビ割れていた。
正しく、美しく、
絡み合い走り抜ける輝きの直線たち。
断裂。
平らなディスプレイのむこう側から、
孵化 しようとする、
あんなにおおきなLOVE SONG

ひとつの誕生日が 生まれた日に、
ひとつの命日が 綴じられる日に、
結ばれた地平。この世界の果てで、
そら
そこで、いつまでも、
孵化 しようとする、
孵化 しようとしている、
あんなにまばゆいLOVE SONG
あんなに遠くのLOVE SONG

別れる日(火・被・非……
うたう ひとつかぎりの憧れ。
そして夢。
僕と君が、
あなたとあなたが、
そしてわたしとわたしが、
別れる日(火・被・非……
に、
痛みは裂け、
大いなる海からあたたかな血をまとい、
生まれてくるやわらかい赤子
の、その小さな手がつかむ世界のために、
いま それぞれの声でうたう。
あんなにおおきなLOVE SONG
あんなにまばゆいLOVE SONG
まだ、
届かないけれど、

世界の果てで、
空は幾何学的にヒビ割れていた。
正しく、美しく、
絡み合い走り抜ける輝きの直線たち。
断裂。
やがてそこから、産声が、
あるいはひとつかぎりの憧れが、
そら
へと響き、溶け込んでいく日に、
そら
そこで、いつまでも、
君とまた会いたい。





   O(オー)

 (ZONEのアルバム『O』に)


O(オー)
まるく
O(オー)
とじているのです
O(オー)
なにもない
の、数字みたいだけど
O(オー)
アルファベットでは
じつは十五番目なんです

O(オー)
血液型は、O型です
O(オー)
驚いたときには
いつも声を上げてしまいます
O(おおお)
おおざっぱだなんて
あまり言われないけど
O(オー)

まるくとじている



この手で触れるものって
世界にどれだけあるんだろう
わたしにはわかりません
まだ十五歳だから
もう十五歳だから
まぶしい朝のひかり
を、どうやってこの手のひらでかたどっていけばいいか
わたしは知らないのです
でも
こんなにまぶしい朝のひかり

わたしは、今日も、目を覚ます


ねえ、雪が降ってきました
ちらちら
ちらちら
はいいろの雲の、もっと高くから
ゆれながら
舞いながら
わたし
あんな歌声に
なっていきたい


そうか
世界は、きっとO(オー)なんです
吐くいきがこんなに白いから
わたしの瞳の手のひらが
雪になって
散っていく



ひかりを、いま
つかまえましたよ





   ZONEの「白い花」へのオマージュ

 (過ぎてしまったらしい戦乱の世紀と、始まったばかりの二十一世紀に。
  死者たちへ。そして、今もなお生きつづけている人々へ。捧げます。)


つないだ手の、
あのぬくもりの、
名前
なくしたから、
思い出さえ、
もう思い出すことはできない。

雪降る夜の、
深い底の、

闇のむこうへ、
あなたの名を呼ぶこともできないまま、
わたしはひとり、
あるいている。
しんしんと、
雪が言葉を遮っていく。

世紀を越えて、
ここでは沈黙が降りつづいているから、
わたしのこの手は、
すでにかじかんでしまった。
正しい思い出を、
正しくさがすこともできないゆび。けれど、
降りしきる雪のむこう、
いまでもかすかに、つながっているのだ。
名を呼ぶこともできない、
あなた
そのぬくもりへと。

そして、わたしはひとり、
わたしたちはひとり、
あるいていく。
底のない夜空のかなた、
殺されたはずのわたしたちの季節が、
白く、浮かびあがっている。
それは、
まぼろしのようにおおきな、
白い花

いつの日か、またこの胸の中で、
咲いている。





   (二〇〇二年十一月一日~十二月二十二日)