どこかでロウソクが燃えていた。揺らめく明るいそのひかりが見え、ロウがじりじりと減っていく音が聞こえていた。 わたしは冬の街中で振り返った。街灯はすでに街のあちこちを華やがせ、その隙間から、凍えるように深い夜空が見えていた。ライトアップされたショーウィンドウの中でポーズをとるマネキン。濃いブラウンにベージュのラインが一本入ったセーターを着て、頭部のない白い首をそこから覗かせていた。白い光の中で誇らしげに立っている。その前で、何組かのカップルが立ち止まり、彼を眺めながら言葉を交わした。そして、彼らもまた、そこから離れて歩き出していく。 風が吹いて、寒い。わたしは、前に向き直ると待ち合わせ場所に急いだ。 今日のデートは、笠木さんから誘ってくれたものだった。わたしにとっては初めて、男の人と過ごすクリスマス・イヴ。お母さんには、友達とケーキを食べてくると言った。早く帰ってこられるかどうか。それはわたしにもわからなかったし、結果がどちらであれ、わかりたくない気持ちの方が強かった。 笠木さんが作ってくれた地図を見ながら、アルタの階段を降りていく。どこかのアイドルのクリスマスライブを、生中継しているのだろうか。噴水前広場に特大のテレビが設置されていて、女性の歌と、取り囲む男の人たちの重くくぐもった歓声が聞こえてくる。 わたしは、密集している黒い人だかりの後ろを通り抜けると、広場の西側にあるお店の前に立ち止まった。壁に背をつけ、テレビの方を眺めながら、待つ。笠木さんの地図の上、何回も曲がりながら続いてきた矢印は、そこで突き当たって止まっていた。 アイドルが何かをする度に、それに合わせて動作を取る男の人たちが滑稽だった。怒号のような歓声が方々から繰り返される。アイドルは、忍というらしい。わたしと同じ名前。少し、親近感がわいた。男の人に囲い込まれた画面上の忍さんと、ただ一人の男の人を孤独に待っているわたしとの間を、幾人もの人々が横切り、通り過ぎていく。 遠くで叫ばれているわたしの名前を数えているうちに、時計の針は待ち合わせ時刻をずっと後ろに置き残していった。一時間と十分待って、わたしは地上に出ることにした。気合を入れて着てきた白いコートが、蛍光灯の光をみすぼらしく弾いている。 アルタの階段を昇っている最中に、わたしはふと、笠木さんの硬い手の甲を思い出した。そして気づいた。わたしは、笠木さんの顔を見たことがなかった。 どこかで銃声が聞こえた。一発。そして、もう一発。ショーウィンドウの割れる音がした。悲鳴は聞こえなかった。 振り返ると、忍さんはまだ踊り続けていた。男たちは必死の表情のまま、その真似をしている。外に出るとロウソクが燃えていた。冬の夜空だけがただ、何も見ずに黙っていた。 |