2006年3月7日火曜日

異稿と作品 3×2篇


   ふりかえることもせず


ふりかえることもせず
また あなたの素肌に出会えた
正午

繰り返さない朝を積もらせ
僕は目覚めつづけていたのだ
それまで

二人の約束は一瞬の川だった
赤紫色の星空の坩堝の
底の底で
それは音もなく流れつづけた

互いに放さなかった両端を
僕がいま ふと思い返すとき
あなたの素肌は透き通っていて
ここにはいないから

二人の石ころのような瞳で
また 約束を交わそうと思う
ほんとの名前で 二人して
こんどは未開の原野のように濡れよう




   信じることは


ふりかえることもせず
また あなたの素肌に出会えた
正午

繰り返さない朝を積もらせ
僕は目覚めつづけていたのだ
それまで

小石のような瞳を濡らした
約束とも呼べない
一瞬の川
その端を放さなかった掌が
砂を払って彼岸はここにある

信じることは
流れつづけるせせらぎの透明さだと知り
僕は 深く眠るだろう
目覚めたら
あなたはいないから

だからこそまた会える
残酷なくらいに
そう 信じている




   (大好きな町、町田を言葉にしようとする。そのための速記)


親子であるか、
援交であるか、

行き先を決めてしまわないと、
降りることさえできない、
巨大な歩道橋。
JR町田駅東出口直通の、
空中交差点を、
午後もまた、たくさんの人々が、
すれ違っていく。
楽しそうに。

この、一階のない二階では、
なつかしい友人をみつけて、
ふと立ち止まることも、
自由
だが、
夜を越えて宿泊することは、
できないらしい。
今日もホテルを探して歩く。

親子であるか、
援交であるか、

旅先ですれ違う女性はみな、
はかない。
旅先ですれ違うやさしさはみな、
はかない。
呼びとめたいけれど、
それも出来ぬまま、
くずれてゆく。黒いスカートの半透明の裾のように。
たえまなく散る陽の光だけを、
見つめつづけている。



   町田


行き先を決めてしまわないと、
降りることさえできない、
巨大な歩道橋。
JR町田駅東出口直通の、
空中交差点を、
午後もまた、たくさんの人々が、
すれ違っていく。
楽しそうに。

遠くまで伸びる視界。
道は百貨店にもつながり、
小田急の駅にもつながっている。
高く、なめらかに整列したビル群と、
均しく瞬かれている、
空。
その手前、歩道橋上で立ち止まり、
ひととき談笑する若者たちの上、
あるいは彼らの横を、
白く通りすぎる娘と母の上に、
穏やかな温度が、
崩れ落ちてきて、降る。

町田。
通り過ぎていく人々の、
うつくしい歩行を誰も呼び止められない。
町田。
まつわりつくはかなさを、
スカートの裾が淡々と払う。
卵のように寡黙なひかり、

町田。
なじまない眼差しが、
影よりも伸びる。
宇多田ヒカルが聞こえている。
町田。
はかなさを払いつづけてはかない。
日の名残さえも冷めていき、
カン。 カン。 カン。 と、
それぞれの水平線のむこう、
暮れる。

誰のものでもない日没


町田。
あてもなく巡るうちに夜は来て、
一枚の地図を覗き込む、
少女と中年男性の姿を見た。



   17歳の夏


脱ぎ捨てた空
懐かしい傷さえ残さずに
肌はさらにやわらかく
おどる

まわっている風が
幾重にも剥がれていく
そのあい間に宿された
ひと夏

青にゆられていた
昼寝から醒めて全力でダッシュした
砂浜は
焼けた骨よりもまぶしくて

刻まれた名前さえ見えない
わたしたちはみな真っさらだ
白い痛みの中で赤ん坊のように笑う
生まれたままの、17歳の夏だ



   新生


脱ぎ捨てた空
懐かしい傷さえ残さずに
肌はさらにやわらかく
おどる

まわっている風が
幾重にも剥がれていく
そのあい間に宿された
ひと夏

わたしたちは笑っている
青くゆれているハンモックから
起き上がってダッシュする
海辺の砂の上

焼けた骨よりもまぶしい
真っさらな白い板を抱く
刻まれた名前は見えない
亡くした人さえいなくなるひと夏



本来、「信じることは」「町田」はそれぞれ縦書きなのですが、「新生」に合わせて横書きにしました。