2005年1月6日木曜日

『一行目から書き始める、』より


   構図 ――映画へのオマージュ 1


 (『EUREKA』に捧ぐ)



駐車場。広大な、
風の色したモラトリアム。
出ていく車も、
入ってくる車も、
しずかにとまる。
どこか遠いところへと

僕らも遠い。もう、
誰も自分のまんなかには立てない。
しろい、
しろいケータイを手の中であたためつづけ、
自分から 自分への言葉を、
ただ一人で待っている。

あっちの彼と、
そっちの彼女と、
こっちのあの子と、
むこうの僕と。
みんな逸れている。もう、
誰も自分のまんなかには立てない。

そして、
平らなアスファルト。

駐車場。広大な、
風の色したモラトリアム。
押し黙った遅刻は、
延々、
えんえん、
繰り返されてゆく。


朝、


朝。





   断続的な、鳥。



立ち止まる。
四つ辻で立ち止まる。
踏み切りの中で立ち止まる。
深夜、
わたしは立ち止まるために外に出る。

今夜も、雨が降り、

 ぴいいいいい、
 ぴいくるううううう。

言葉よりも早く、
やってきてしまう、
声。
出会う、

 ぴいいいいい、
 ぴいくるううううう。

断続的な、鳥。


立ち止まる。
いつまでも誰も来ない四つ辻の真ん中
あるいは電車が走ることもない線路の上

今夜も、雨が降り、黒光りする舗道は垂直に
立ち、音もなく裏返りながらそこを這い上っ
ていく言葉 あるいは言葉
       。
              わたしは、い
つからいつへ どこからどこへ 歩いている
のか。夜。ぬめぬめと、すすまない、
   ない、の
        に、      ?   

この、さびしい石油。
遠くの夜の海から、
言葉よりも早くやってきて、
とり残されていく、
声。
あるいはわたし。
このわたし、

 ぴいいいいい、
 ぴいくるううううう。

知らないうちに歩いていたのだ


だから立ち止まる。
四つ辻で立ち止まる。
踏み切りの中で立ち止まる。
深夜、わたしは立ち止まるために外に出る。

しかし、断続的な、鳥。
あるいは異界からのファックスの音が聞こえるばかりで、
四つ辻の真ん中にはいつまでも誰も来やしない。
雨に濡れた線路の上に、
透明な空き列車が走ってくることもない。
だからわたしは、
ふたたび歩きはじめてしまうのだ。
(あるいはすでに歩いていた)

ああ、針金のようだ。
さびしく細くふるえる夜に、
歩いているわたしだけが、
絶え間なく補充されている。

ほら、また、

 ぴいいいいい、
 ぴいくるううううう。





   墓碑銘



ふるえよ
褐色の墓碑銘

罅割れた大地は静かにくちを開いていた

ふるえよ
褐色の墓碑銘
夜また夜の遠いうみで
絶え間なく乗り越えられてゆくなみ
砕け散る白い波頭!

せめぎ合う境界線 は
空白のしぶきに濡らされている
あるいはどこからかやってくる領土
ギリギリした奪い合いはしかし静かに往来し
はるか
それを遠くに望んでいる
墓地

歯が
歯が立ち並んでいるのだ
この平野
この底
この
音もなく広がりゆくしまに
無数の歯が
そらに向かって
枯れている
のだ

くち
開いていた
透明をのみ込み
透明をしゃべろうとする
とする

罅割れた
乾燥しきった
口腔
この
ぼ、 墓地

ふるえよ
褐色のぼ、 碑「名」
生まれる前から刻まれていたぼ、 碑「名」
すでに枯れているム数の歯に
カッ!色の カッ!色の
ぼ、 僕
ぼ、 母体
ぼ、 墓地
ぼ、 ぼ、 ぼ、 ぼ、


ふるえよ
ふるえよ褐色の墓碑銘
この平野
この底
この
音もなく広がりゆくしまに
ふるえよ
褐色のやわらかな傷





   ブランコ



ゆれているブランコが
勢いをつけて
一周する
あいだ
ゆっくりと
頂上をこえて
いく わたし

消える

わたし
頂上で
日の正午で
頭は大地に 足は空に
つつ(tutu)になる
垂直なつつ(tutu)
足から頭へ
しずかな影を透過する

消えている

日の正午
の 影
青く塗られたブランコに
ずっとずっと高くから
落ちてきて降りつもる
みず またはひかり
その落ち葉
は かすかな質量を
運んできて
運び去ってゆく
足音のない


消えた
消えていた


ゆれていたブランコが
勢いをつけて
一周した
あと

ゆれているブランコ
と わたし
あたらしく
あたらしく
流れはじめたばかりの午後に
あゆみ出してゆく





   一行目から書き始める、



一行目から書き始める、
まったくの引用符なしで、
そらからそらを奪い取る、
あとはわたしのからだ
が見、 そして見、
厳しく呼ぶ、あるいはよばう、
果てのない祝婚、
そらから大地に立てられた一本の柱のまわりを、
まわって、
求婚しあう永遠の二人、あるいはそれ以上、
そして降りつもる時間の透明な子宮が、
また、次の柱を生んでゆく、
家、
組み上がった柱は鉄のように冷徹に、
ふるえているのだ、
無辺の地平に降り立った、降り立たされてしまった、
そら、
ささやかな祝婚の家、
その中では、
無数の死者たちとひとりの子どもが、
遊びまわっている、
さあ、いまピリオドをうって、
この家あるいは鋼鉄の檻を綴じなければならない!
再び気づかれる時まで、
ひらかれて、
そらへと還るその時まで、
詩よ、わたしと死者たちの詩よ、
発音されえない地図となりえよ。




   (二〇〇二年九月二十一日~十月二十日)



これが、自分のひとつの出発点だったと思う。
ZONEも入沢康夫も黒沢清もよく知らない頃の作品。