2005年1月6日木曜日

「わたげ ――ある死者のために」 ほか一編


   わたげ ――ある死者のために



うたうやうに
しずかなはなを
さかすやうに

は     ね

それは
草や木の
いのりでありました

そらとみずの
そらへ
ゆたかに
うつくしく
実   の、り
ふくらんでいく
は     ね

うたうやうに
しずかなはなを
ふむ
やうに
このあしで
いのちのおはりを
ふみ
ふみ
ふみしめてあゆんでゆく
あかんぼう

あし の
やはらかさ

ふみ
大事なふみを
なくしてしまつた
このゆびは
かはにもぢをかくには
かたすぎる

やがて
かれてしまつ た
この手のひらに
まぼろしのやうに
白く
あめのやうに
こまかく ふつてくる

は     ね
かすかに音をつれて
実   の、り

それは
草や木の
いのりでありました

うたうやうに
しずかなはなを
からすやうに



   (二〇〇二年十一月一日 桃井望の死後第一作)





   ZONEの「白い花」へのオマージュ



つないだ手の、
あのぬくもりの、
名前
なくしたから、
思い出さえ、
もう思い出すことはできない。

雪降る夜の、
深い底の、

闇のむこうへ、
あなたの名を呼ぶこともできないまま、
わたしはひとり、
あるいている。
しんしんと、
雪が言葉を遮っていく。

世紀を越えて、
ここでは沈黙が降りつづいているから、
わたしのこの手は、
すでにかじかんでしまった。
正しい思い出を、
正しくさがすこともできないゆび。けれど、
降りしきる雪のむこう、
いまでもかすかに、つながっているのだ。
名を呼ぶこともできない、
あなた
そのぬくもりへと。

そして、わたしはひとり、
わたしたちはひとり、
あるいていく。
底のない夜空のかなた、
殺されたはずのわたしたちの季節が、
白く、浮かびあがっている。
それは、
まぼろしのようにおおきな、
白い花

いつの日か、またこの胸の中で、
咲いている。



   (二〇〇二年十二月十九、二十二日)




   (二編とも、『寄せる波、世界へ、』より)