六月よ 初めてもらった歌のことを 覚えていますか あなたのためだけに書かれ あなたがまだ たどたどしかった淡水の胸元で みんなのために生まれた歌へと 羽化 させなければならなかった あの あなたの双子のことを それは 降りつづく小雨に濡らされた 黒光りする鉄製の削岩機 それは やわらかな毛と毛にくるまれて 丸くなって震えている子ウサギの息 それは 緑の髭の生え初めた原野を 穏やかに渡っていく控えめの風 それは 繰り返し違う名前で呼び直され その度ごとに振り返る夕暮れ そしてあなたの羽でした そしてあなたの羽でした 六月よ 今日は曇っていて京都しか見えない あなたの元を飛び立った双子の 描いた軌跡も 落としていった影も 羽を失ったあなたが歩む 北海道のゆるやかな傾斜も ここからは なんとしても見えないから 痛みつづける左半身を連れて わたしは病室から出て歩き始める 今日は給湯室まで 明日は地下の購買まで そしていつしかどこかの喫茶店で あなたにしずかに追いつかんがために 六月よ わたしの双子よ あの歌の残響の中で あなたがひそかにその身を引いたように わたしもいま 命を捧げた詩の地獄から 手を 離そうと思います だから六月よ これは詩ではない 「自分の足で歩いていきます これはもはや詩ではない 「歌いたい時に また歌えばいい あなたも歩む 詩も歌もない川辺の散歩道の むこう 廃れていく家の 廃れていく庭園で いつか金色の芒が 笑顔みたいにほころびますように (二〇〇四年七月六、七、九日) |