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「夢はかなえるものだ」 なんて、 いったい、誰が言い出したのか。 テレビのないテレビ台と、 垂直に片付けられたままのワープロ。 乾いたままの採尿容器に、 自力では酸素を取り込めない、 冒された肺の、おおきな呼吸。 「夢はかなえるものだ」 なんて、 いったい、誰が言い出したのか。 しずかな病室と、 浅すぎる汗ばんだ眠り。 わずかな親族のわずかな看病に、 ノートへと書き連ねられてゆく、 血圧、脈拍、酸素吸収率。 そして言葉。少しだけの。 「普通の人ならば、」 九月の陽を受けて、 ビニールチューブはなめらかにギラついている。 「普通の人ならば、」 宙づりになって止まっている、 何本もの管をかいくぐって、 近づいた僕に、 「普通の人ならば、 尿が止まってから、 二十四時間の命だと 言われています。」 薄く目覚めた祖父は、 誰にも聞き取れない言葉で、 教えてくれた。 「帰る夢、見たわ。」 「わえやな、あおに、帰るねん。」 (「あお」――。 それは僕たちが暮らしていた、 山と空の美しい、 小さな町の名前なのだ。) 祖父よ。 あおには、家があるのでしょう。 あおには、家族があるのでしょう。 犬を連れて散歩した、 僕たちの知らない道があり、 それは細く曲がり、次第に入り組みながら、 あの、山の上の青空へと、 つづいているのでしょう。 あなただけのあなたと、 あおのみんなのためのあなたが、 しずかに手を繋いでいる。 祖父よ。 あおには、あおが、 あるのでしょう。 「わえやな、あおに、帰るねん。」 昼下がりの病室に、 苦しい熱を帯びた呼吸音が、 ふたたび、おおきく鳴り始める。 「わえやな、あおに、帰るねん。」 「夢はかなえるものだ」 なんて、 いったい、誰が言い出したのか。 かなえられないからこそ見る夢の、 美しい、その片袖は、 ビニールチューブに絡まって、 陽の光の中、 宙づりになっている。 |