2003年12月31日水曜日

偽書


お前のいのちがお前を切り裂く
ナイフみたいにだ いま
白い兎が荒野で自殺する
受ける罰さえないままに

河もトカゲもどの砂漠へか去り
黒ずくめのガンマンは みな
コンビニのおにぎりで大きくなった
血は夕空からも追いやられ

爬虫類のように俺を愛してくれ!
そう叫ぶお前を いま
背後から撃ち抜く者は誰もいない

鉄のいかづちをただ待ち受けている脳
振り返れば 林檎の木の枝に
ぶら下がったまま動かない蛇



引用=今回は、あまりにも直接的な引用が多かったので、真面目に註を書いてみることにします。この 註は、別にお勉強や種明かしのためではない。ただ引用・参照元への最低限の礼節であるとともに、詩の意図が必要以上に危険なものに取られることを恐れてのものです。この詩は、断じて戦争や闘争を賛美する詩ではありません。

・一行目、二行目…「Your own life, cuts you like a knife」(MOTORHEAD 「Shoot You In The Back」より)

・三行目、四行目…因幡の白兎の話は、もちろん、キリスト教的罪と罰の寓話として語られるべきものではないだろう。そのことは知っていながら、しかし、今回あえてお話の流れに沿わせてみた。僕が書こうとしているのは、もっと壮大でもっとみみっちい偽書なのだ。

・「河もトカゲも」…因幡の白兎の場合、兎は隠岐の島から海を渡ろうとしたのであって、河ではない。そして、そこにいたのも「鰐」であって、これはトカゲとは違う。それらのことは知りながら、ここでも西部劇的にするために、改変を加えた。なお、『古事記』における武田祐吉の註によると、この「鰐」は「フカの類。やがてその知識に蛇、亀などの要素を取り入れて想像上の動物として発達した。フカの実際を知らない者が多かったからである」そうだ。

・「黒ずくめのガンマン」…「The rider wearing black, /He's gonna Shoot You In The Back」(同前)

・九行目…「Love Me Like A Reptile」(MOTORHEADの同名曲より)

・「背後から撃ち抜く者」…「黒ずくめのガンマン」の項参照

・「鉄のいかづち」…「Believe me, The Hammer's coming...Down!」(MOTORHEAD 「The Hammer」より) また、ミルトンの『失楽園』によると、神の武器は雷(いかづち)であり、その効能の比喩として、「鉄槌」という言葉が出てきている。ここではそれを倒立させた。

・「振り返れば」…「The horseman turns, the wound that burns」(「Shoot In The Back」)

・十四行目…「糸杉の林の裏 地下工場の廃墟のねじくれた鉄骨に/ぶらさがっていた蛇」(入澤康夫 「或る失意の唄」より) しかし、ここでも例によって似非キリスト教化が図られている。なお、『失楽園』における平井正穂の註によると、サタンに乗り移られてイーヴを誘惑し、禁断の果実であった林檎を食べさせたため、蛇は地を腹ばう存在にされてしまったらしい。それ以前の蛇の移動方法を、ミルトンは「尾部を(中略)幾重にもとぐろを巻いてそそりたつまるいその下部を、/地面につけて立ったまま、進んでいった」と書いている。そして、イーヴが林檎を食べる時も、蛇はその横で立って見ている、といった体なのである。

"文献・資料"
MOTORHEAD 『ACE OF SPADES』
武田祐吉訳注 中村啓信補訂・解説 『新訂古事記』 角川書店 一九七七年
ミルトン著 平井正穂訳 『失楽園』 岩波書店 一九八一年
入澤康夫 『入澤康夫 "詩" 集成』 青土社 一九九六年