地吹雪が過ぎていった。身の丈を越える雪だけが見える、真夜中の森を震わせて。 地吹雪が過ぎていった。粉のように小さく、凍った雲のようにきらめいている雪。蹴立てられて逆巻き、逆巻きながら夜空を埋め尽くして進み、地鳴りとともに木々を飲み込んでいく。夜が轟音を立ててけたたましく揺れる。そしていつしか静かになっている。 二〇〇五年の四月だった。僕の部屋の窓は開いていた。そこから時折風が吹き込んできて、開けたままのカーテンを膨らませた。風はそのままどこかに消えてしまう。カーテンはたちまち元の位置に戻り、しかし、かすかに揺れつづけている。 覆いを取り払ったコタツの上には、原稿用紙だけが乗っている。文字は何も書かれていないし、僕がそこに何を書こうとしていたか、今となっては曖昧で思い出せない。また風が吹き込んできて、消える。カーテンは目に見えない呼吸を繰り返していて、それに合わせて領域を伸び縮みさせている春の陽が、まるで打ち寄せつづける遠い波みたいだ。その波打ち際、光と影とが絶え間なく行き交い奪い合っているあたりで、十何枚ものCDケースが散らばっている。どのケースも口が開いていて、その中には、たった一枚のCDも見つけられない。 僕が三年間暮らしたその学生マンションは、住宅地の真ん中、やや小高くなった所にあり、周囲を緑の木々に囲まれていた。五階建てで、僕の部屋はその四階にあった。 僕の部屋には誰もいなかった。窓が開いていて、風が時折吹き込んできてはカーテンを膨らませた。そしてそのままどこかに消えてしまう。 僕の部屋には誰もいなかった。大学三回生の春、すでにして僕は行方知れずになっていた。僕もいない僕の部屋を、いなくなった僕が眺めていて、窓は開けられたままで風が時折吹き込んでくる。そしてそのままどこかに消えてしまう。膨らんだカーテンはたちまち元の位置に戻り、しかし、かすかに揺れつづけている。 どこかから降ってくる話し声が、四階のベランダにさっきからずっと聞こえつづけている。 この学生マンションの屋上からは、いくじなく密集している東京の民家を眼下に見渡すことができた。上空から見ると、正方形に近い長方形に見えるだろうその屋上は、四方をベージュ色の鉄柵に囲まれていたのだが、そのうち片側の長辺の真ん中あたりに、鉄柵が大きく欠けている部分があった。それは、穴が開くとか破れるとか、そういうレベルの欠け方ではなく、その部分が文字通り欠落してしまったかのような無くなり方で、そこに鉄柵があったこと自体、左右に残る柵の断面がわずかに歪んでいることからようやく推測できるくらいだった。 その欠落部分の前に、いつからか四人の少女が立っていて、家並を眺めながら言葉を交わしていた。四人とも私服で、背格好から高校生か大学一回生のように見える。時々声を立てて笑ったり、大げさにふざけ合ったりすることはあっても、四人は基本的に落ち着いた雰囲気で会話していて、彼女たちの浮かべる穏やかな表情には、何か、その底で流れつづけるゆるぎない強さが感じられた。 音もなく飽和した春の陽の中で。家々の低い屋根が空しく午後を囁き合っている。欠落部分から腕を差し出して、背の低い少女がその一帯を指し示した。中空をゆっくり左右に動いていく腕。細い人差し指。高くハキハキした声で何かを喋っているが、その内容はほとんど聞こえてこない。 「……夢のカケラ」 風のあい間にその一言だけが聞き取れて、ちょうどその時、周りの三人が小さくほほ笑んだ。言った本人も「はは」と声を立てて笑ったが、彼女の笑顔が一番さびしそうな色を湛えている。少女たちの肌は白い。しかし、四人ともまったく違う顔立ちをしていて、互いに別人だった。 「題名だけのスレ3」に、自分で書き込んだタイトルより。 全3~4回を予定しています。ちなみに、同じタイトルで 最果タヒさんが書いて下さった詩はhttp://www.eonet.ne.jp/~luara/writting/006/0001.htmlにあります。必見。 |